◆「妻が立ててくれない」

この夫が極端な性格なのだと思われるかもしれませんが、離婚裁判を扱っている弁護士なら、程度の差はあれ「よく聞く話」だと感じると思います。

妻側の代理人として夫から話を聞くこともあるのですが、「自分こそ、妻から愛されていない」「妻は自分に冷たい」というフレーズは、定番中の定番です。自分は妻を愛しているのに、妻はそうではない。だから自分が離婚を突きつけられるのは不当である、と本気で思っているのがわかります。

私から「どういうときに愛されていないと感じるんですか?」と問うと、「ここのところ、まったく立ててくれなくなった」と返ってきます。

彼らが言う「立てる」とは、辞書で「人を自分より上位に置いて尊重する」と説明されているものです。これも、ケアの一種です。尊重され、気遣われ、お世話されるのは当然だと思っていれば、妻が自分を「ケアしてくれない」ということを、自分の「被害」であると感じるのでしょう。

話を聞いていると、まるで赤ちゃんだと感じることもあります。まだ言葉を話せない幼い子が泣いていると、周りの大人が「ミルクかな? 抱っこかな? 眠いのかな?」と考えながら対応します。それでも泣いている理由がわからないことも多いのですが、なんとかしてそのニーズを汲み、満たしてあげようと努めます。