大学生ともなると、アルバイトなども比較的気軽に行えるようになり、交際費や生活費を稼ぐために就労する学生も珍しくありませんが、その一方で収入を得るということは、あわせてさまざまな義務も生じることになります。今回は、学生と学生を扶養する世帯主(親など)が利用することのできる各種特例制度について解説していきます。
学生とその世帯主は、控除などを上手に活用しよう!
大学生が収入を得て生じる代表的なものとしては、所得税や住民税などの税金、健康保険や国民年金の保険料の納付が挙げられます。
これらは、収入の少ない学生のうちは特例が設定されており、学生と学生を扶養する家族が減額・免除などの対象となりますが、一定額以上の収入を得てしまうと、特例が利用できなくなってしまいます。それぞれがどのようなものか、またどれくらいの減額・免除となるか見ていきましょう。
- 所得税等の勤労学生控除
- 世帯主の所得税・住民税を軽減(特定扶養親族)
- 組合健康保険の被保険者親族の扶養
- 国民年金の学生納付特例制度
1. 所得税等の勤労学生控除
アルバイトなどによって一定以上の収入を得た場合、所得税や住民税などの税金を支払う必要がありますが、大学生などの「勤労学生」に該当する場合は、「勤労学生控除」という税金を減額する制度を利用することができます。
勤労学生の要件
- 給与などの勤労(労働)による収入があること
- 合計所得金額が75万円以下(給与収入のみの場合は130万円以下)で、勤労以外の所得が10万円以下であること
- 小、中、高校、大学、高等専門、専修学校などの生徒や、職業訓練校で一定の課程を履修していること
※勤労以外の所得とは、株式や債券などの金融商品からの収入や、不動産の賃料収入などの、いわゆる不労所得が該当します。
これらの条件に合致する場合、勤労学生控除27万円の適用を受けることができます。
勤労学生控除を利用することにより、学生本人の税金の負担額がどのように変化するかを試算し、確認してみましょう。
【試算の条件】
<収入>
年間の給与収入:130万円
<控除>
給与所得控除:55万円
基礎控除:48万円(住民税の場合は43万円)
勤労学生控除:27万円(住民税の場合は26万円)
所得税の税額を計算するにはいくつかの段階があります。まず、収入を得た方法や損失・控除の差引タイミングにより、総所得金額・合計所得金額・総所得金額等と計算のベースとなる課税額が変化します。
今回のシミュレーションでは給与収入のみですので、給与収入130万円-給与所得控除55万円=75万円の合計所得金額が税額算出のための課税額となります。
所得税・住民税の税額の算出
<勤労学生控除を適用した場合>
所得税の税額
合計所得金額75万円-基礎控除48万円-勤労学生控除27万円=課税される所得金額0円住民税の税額
合計所得金額75万円-基礎控除43万円-勤労学生控除26万円=課税される所得金額6万円
課税される所得金額6万円×住民税の税率10%+均等割5,000円=住民税の納付額1万1,000円
納付額合計:1万1,000円
勤労学生控除を正しく適用した場合、給与収入130万円までは所得税を課されませんが、住民税は控除額が異なるため、124万円を超えた場合は住民税の負担が発生することとなります。
<勤労学生控除を適用しなかった場合>
所得税の税額
合計所得金額75万円-基礎控除48万円=課税される所得金額27万円
課税される所得金額27万円×所得税の税率5%=所得税の納付額1万3,500円住民税の税額
合計所得金額75万円-基礎控除43万円=課税される所得金額32万円
課税される所得金額32万円×住民税の税率10%+均等割5,000円=住民税の納付額3万7,000円
納付税額合計:5万500円
試算から、勤労学生控除を利用することにより、税金の負担額の差が、約4万円生じていることが分かりました。
税金を申告する際の注意点
日雇いを含む、アルバイトの掛け持ちを行っておらず、給与以外の所得が20万円以下である場合は、勤め先が申告・納税を代行してくれる「年末調整」の制度を利用することができます。
勤労学生控除を受けるには、年末調整の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の勤労学生の欄にチェックを付ける必要があります。
このチェックの有無により、税金の負担額に差が生じてしまう恐れがあるため、適用を受ける場合は忘れずに勤労学生控除の申請を行うようにしましょう。
2. 世帯主の所得税・住民税を軽減(特定扶養親族)
学生など、収入が少なく単独では生計を維持できない場合は、世帯主が金銭的援助などで扶養を行うこととなりますが、この際に世帯主は、所得税等の負担を軽減する「扶養控除」の制度を利用することができます。
扶養控除の特徴として、扶養親族の年齢によって控除額が変化する点が挙げられます。特に大学生などが対象となる、19歳以上23歳未満の扶養親族は「特定扶養親族」に該当し、最大63万円の所得控除を受けることができます。
扶養親族とするための要件
これには収入の要件があり、扶養親族の合計所得金額48万円以下(給与収入のみの場合は103万円以下)でなければなりません。
仮に特定扶養親族の人が、収入の要件に該当せず、特定扶養控除を利用できなくなってしまった場合、世帯主の税負担がどう変化するのかを試算により確認してみます。
【試算の条件】
<収入>
世帯主の給与収入:600万円
<控除>
給与所得控除:164万円
社会保険料控除:90万円
基礎控除:48万円(住民税の場合は43万円)
特定扶養親族の扶養控除:63万円(住民税の場合は45万円)
給与収入600万円-給与所得控除164万円=合計所得金額436万円
課税される所得税等の算出
<特定扶養親族がいる場合>
所得税の税額
合計所得金額436万円-社会保険料控除90万円-基礎控除48万円-特定扶養親族の扶養控除63万円=課税される所得金額235万円
課税される所得金額235万円×所得税の税率10%-控除額9万7,500円=13万7,500円住民税の税額
合計所得金額436万円-社会保険料控除90万円-基礎控除43万円-特定扶養親族の扶養控除45万円=課税される所得金額258万円
課税される所得金額258万円×住民税の税率10%+均等割5,000円=住民税の納付額26万3,000円
納付税額合計:40万500円
<特定扶養親族がいない場合>
所得税の税額
合計所得金額436万円-社会保険料控除90万円-基礎控除48万円=課税される所得金額298万円
課税される所得金額298万円×所得税の税率10%-控除額9万7,500円=20万500円住民税の税額
合計所得金額436万円-社会保険料控除90万円-基礎控除43万円=課税される所得金額303万円
課税される所得金額303万円×住民税の税率10%+均等割5,000円=住民税の納付額30万8,000円
納付税額合計:50万8,500円
試算の結果、税負担は10万円超増加していました。
特定扶養親族は控除額が大きいため、税額への影響が大きくなります。特に大学生などは多額の教育費がかかる負担の大きい時期なので、想定外の負担とならないよう注意しましょう。