◆一周まわって“悪女”を極める
好感度上々、自然な悟りの道を開いた田中だが、ここにきてかなり挑戦的な役柄を演じた。ドラマ初主演となった『悪女について』(NHK、2023年)は、田中みな実の全勢力、全集中を注ぎ込んだ力演となったのだ。
美容や宝石事業で巨万の富を築いた富小路公子(田中みな実)は、タイトル通りしきりに悪女だと言われる人物。公子が謎の死を遂げたことから取材に乗り出した小説家の梶谷亜弥(木竜麻生)が、興味深い台詞を言う。
「正面切って悪女と言われてもまったく動じないところ。なんでこんな風に堂々としていられるんだろう」
自分を悪女と呼ぶなら勝手にするがいい。たとえそう呼ばれてもどんとこい。自分は痛くも痒くもない。みたいな田中本人の声がこの役を通じて聞こえる気がする。
アナウンサー時代の小悪魔キャラや、俳優進出当時の悪女キャラが何とも可愛いくらい。一周まわって“悪女”を極めるという。人間としても、俳優としてもかなりの器になってきた。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu