国税庁が発表した「令和3年分 相続税の申告実績の概要」によると、平成27年の相続税改正により、相続税の課税対象となる人は約2倍に増加。それ以降も概ね上昇傾向にあります。
ある程度の資産を持っている人は、相続税対策が欠かせません。相続税は、「生前贈与」により大きく軽減できる可能性があります。ただし要件を理解しておかないと、ペナルティが課されることも。
今回は、老後最強の税金対策と言われる生前贈与のうち、代表的なものを5つ紹介します。
■1:暦年贈与
暦年とは1月から12月までの1年間のことで、暦年贈与とは、毎年贈与税のかからない範囲で贈与をする方法のことです。年間110万円までなら非課税で贈与を受けられ、確定申告の必要もありません。
暦年贈与は受贈者(贈与を受ける人)ごとに適用されるため、子ども3人に110万円ずつ贈与をすれば330万円まで非課税となります。
非課税枠を使って長期にわたってコツコツと暦年贈与していけば、高い節税効果が期待できます。
■2:相続時精算課税制度
相続時精算課税制度を選択すると、贈与者が亡くなったときに、贈与した財産を相続財産に含めて相続税を納税することができます。受贈者は累計2,500万円まで非課税で贈与を受けることができ、2,500万円を超えた場合は、贈与税20%が課されます。
同制度は父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に生前贈与する場合が対象です。
相続税を計算する際、贈与時の評価額で計算されるため、不動産や株式など、将来値上がりが期待できる資産を贈与するときに相続時精算課税制度は有効です。
なお令和6年以降は、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が適用されます。つまり毎年110万円までなら、相続税精算課税制度の枠2,500万円の金額に含める必要がなくなります。将来、相続財産に加算する必要もありません。
■3:結婚20年以上の夫婦間の不動産贈与(おしどり贈与)
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、自宅や住宅を購入するための資金を贈与する場合、2,000万円までなら非課税となる制度です。さらに暦年贈与110万円も併用できるため、2,110万円までの贈与が非課税でできます。
ただし贈与を受けた翌年3月15日までに、贈与された自宅に住むこと、そして以降も住み続ける見込みがあることが要件です。
■4:教育資金の一括贈与(2026年3月31日まで)
父母、祖父母などから、30歳未満の子や孫に教育資金として1,500万円まで非課税で一括贈与できる制度です。ただし卒業または教育訓練終了後、30歳までに使い切れなかった分には贈与税が課されます。
■5:結婚・子育て資金一括贈与(2025年3月31日まで)
父母、祖父母などから、20歳以上50歳未満の子や孫に結婚や子育て資金を一括贈与する場合、1,000万円まで非課税になる制度です。ただし受贈者が50歳になるまでに使い切れなかった分には贈与税が課されます。
■生前贈与は早めにとりかからないと損するかも
2024年以降、相続開始からさかのぼって7年以内(2023年までは3年以内)に行われた暦年贈与は、相続税の課税対象となります。年間110万円の基礎控除の範囲内であっても相続財産とみなされるため、早めにとりかかることが大切です。
ただし、相続時精算課税制度を選択した場合の110万円の基礎控除やおしどり贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金一括贈与はさかのぼって課税対象となりません。
また税務調査などで、生前贈与とみなされなければ、相続税の課税対象となります。贈与をする際は、極力贈与契約書を作成し、公正証書にしておきましょう。金銭贈与であれば、銀行振り込みで贈与の履歴が残るようにしておくことをおすすめします。
文・金子賢司(ファイナンシャル・プランナー) 立教大学法学部卒業後、東証一部上場企業に入社。その後、保険業界に転身し、ファイナンシャル・プランナー(FP)として活動を開始。FPの最上級資格CFP資格を取得し、個人・法人のお金に関する相談を受けながら、北海道のテレビ番組のコメンテーターなどとしても活動している。