◆初の殺人犯役
殺人犯役であるからには法廷で証言台に立つことになる。『死刑にいたる病』(2022年)では、自分が犯人かどうか錯乱する男を演じたが、初の証言台にして、初の殺人犯役である『アンチヒーロー』はどう写るのか。
証言台に立つ岩田剛典を見て思うのは、恐ろしいくらい無表情であること。台詞はすくない。終始、虚ろな顔。その表情に吸い込まれそうになる。そして金髪……。それで思い出す最近の作品といえば、「Only One For Me」ミュージックビデオだ。
曲の調子はご機嫌だが、鏡の中に顔が写る短いショットでは、意味ありげな岩田の無表情が際立っていた。温かいような、虚ろであるような。解釈が自由に可能なその表情を見て以来、岩田を“鏡の中の人”だと認識するようになった。
髪色は違うが、『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(2023年)や『誰も知らない明石家さんま』(2023年11月26日放送回)での再現ドラマでも、同じように鏡の描写が印象的だったことを思い出してもいい。
その上で緋山役の虚ろな顔を考えてみると、それは現実の表情というよりは、鏡の中で写るもうひとつの虚の顔ではないかということ。明墨の弁護によって緋山がほんとうに犯人なのかどうか攪乱されつつ、岩田の虚実ないまぜの演技が、真相をさらにわからなくする。