■「口の悪い天才」というステレオタイプ

 さて、特別災害対策本部「SDM」のリーダーであるハルカン(山下智久)は、高度な計算能力と豊富な気象知識で正確な気象予報を弾き出す天才として登場しました。一方で、いかにも尊大で、口が悪い。言ってることは正しいし結局は人の命を救うけど、とにかく上から目線でモノを言う。そうして周囲を威圧してコントロールすることで、人を動かしていく。

 そういうキャラクターがドラマに登場するとき、たいていは「いや、あえて嫌われてるんだ」「人命を救うためなら、俺の評価なんてどうだっていいんだ」と、その態度が正当化されることになります。ヒーローとは孤独なもの、誰の指図も受けない、結果を出せばおのずと周囲はついてくる、そういう価値観のドラマをいくつも見てきました。

 しかし『ブルーモーメント』は、あくまで「SDM」というチームを描くことを目的としています。そして「チームである限り、そういう態度はダメなんだ」と、ちゃんと言う。あえて私たちが見慣れたステレオタイプのヒーロー像を作っておいて、否定して見せる。

 おそらくは、この作品はドラマというメディアを通して本当に本気で「災害から人を守りたい」という信念を抱いている。だから、山Pに恥をかかせることを恐れないんですね。信念が伝わってくると、見る側も「ちゃんと見よう」「ちゃんとこの人の話を聞こう」となりますし、やっぱり「伝えたいこと」があるドラマはおもしろいんです。おもしろいんだよなぁ、『ブルーモーメント』。