参加メンバーはまず、赤い幕の裏で数十分をかけて衣装ボケ&モノボケを練って出オチを狙う。幕が上がった瞬間、そのインパクトの勝負になる。その画ヅラを見せるだけで15秒ほどを使い、進行役のノブが名前を尋ねる。2ボケ目。そこから、ノブによる矢継ぎ早の質問にさらされることになる。「必殺技は?」「決めセリフは?」「誰と戦ってる?」。面白ヒーローになり切った芸人たちは、自ら決めた設定に沿って、即興で回答していく。画面からは、彼らの脳みそから噴き出す汗の音が聞こえるような緊張感が伝わってくる。その緊張感によって「スベっても面白い」という盤石の空気が生まれる。
さらに、ひと通りの質問が終わると、参加者は自分の大喜利を説明させられることになる。そのヒーローに至った思考の発端や、ボケの成り立ちの経緯、裏設定、質問に回答したときの心境など、お笑いファンの大好物である「笑いの裏側」が存分に披露されるのである。
30分の放送枠に対して、おおまかに4人で4ボケしかない番組は、そうして終始、面白いまま終わっていく。
自由を与えられることは、責任を負うことだ。企画や台本がゆるければゆるいほど、芸人はその行間を現場で埋めなければならない。YouTubeならスベッたらお蔵入りでいいだろうが、テレビには放送枠があり、多忙な千鳥に失敗は許されない。失敗が許されないからこそ、千鳥は失敗しても許される空気作りに入念になる。結果、収録に参加した誰もが損をしない。そうして千鳥はスタッフや共演者からの信頼を厚くしていく。次の収録につながっていく。
その緊張感や達成感が、千鳥は好きなのだろう。「好きなことができるのに、どうしてYouTubeをやらないの?」そんな質問は、この2人の前では、まるで無意味になる。
(文=新越谷ノリヲ)