「何を期待していたんだか」と、苦く笑う田邊教授(要潤)。ムジナモの論文は万太郎(神木隆之介)の名前だけで植物学会誌に発表され、そこには種類をつきとめた教授の名前はない。大窪助教授(今野浩喜)が即座に万太郎を叱責し、監督していた自分の責任でもあると先に謝り、学会誌を廃棄して教授との共著に書き直させるとかばってくれたけれど、田邊教授の心は元には戻らなかった。気配りの人・徳永助教授(田中哲司)がいたら、前もって万太郎に助言したと思うのに、彼はドイツへ留学中。それも、田邊教授が快く送り出したからこそ……。すべてが悪いほうに転がって、田邊教授から「我が東京大学植物学教室への出入りを禁ずる」と言い渡される万太郎、これで彼には研究の場がなくなり、お金も職もなく、もうすぐ第二子が生まれる。そんな衝撃のエンディングだった第17週。
そもそもここまでの田邊教授の道と万太郎の道は、まるで違うものだった。植物学のために政治家たちと繋がりを持ち、駆け引きの末に登りつめた田邊教授。かたや、峰屋の当主として大事にされ、さまざまな人の中でどう振る舞うべきか考える必要がなかった万太郎。政府の仕事をたくさん引き受けざるを得ない田邊教授は、どこにも属していない万太郎とは違い、気ままに植物採集をしたり、花が咲くまで待つような時間が持てない。隙を見せないように生きてきたから、万太郎のように笑顔で人に接することができない。けれど、田邊教授が必死に切り開いてきた道をすべて否定するような生き方をしている万太郎を、植物学教室のみんなも、世界中の学者たちも、褒めたたえる。もし万太郎が、教授に感謝を言葉で伝えるだけでなく、共著の形にして、東大植物学教室の協力があるから自分の研究が成り立っているのだと、文章にして発表していたら。彼にとっては草花への愛情表現である論文発表は、他の人たちにとっては「実績」「名誉」であること、それをないがしろにされるのは大変な侮蔑だと、気がついていたなら。だけどどれもできなかった。野宮(亀田佳明)が評したように万太郎は「無邪気で無知」なまま、東大植物学教室にたどり着いてしまったから。