貿易不均衡から「ハイテク産業の覇権争い」へ?

もちろん、中国が世界のトップを目指すことには何の問題もなく、他国がとやかく言うことではない。ただ、米国をはじめとする主要国が眉をひそめているのは「国内比率を大幅に引き上げる」という部分にある。「中国製造2025」によると半導体などの基幹部品の国内比率を現在の20%から2020年に40%、2025年には70%に高めるという。この目標を達成するために欠かせないのが最新技術や人材、知的財産の確保であり、中国政府が国内企業に補助金を給付し、外国企業に対して技術移転を強いるのではないかとの警戒感が広がっているのだ。

実際、ナバロ米通商製造政策局長は19日、「(中国が)米国からの輸入を拡大するだけで、米国の知的財産や技術を盗むことを容認すると思ったら大間違いだ」と述べている。この発言は問題の本質が貿易不均衡からハイテク産業の覇権争いにシフトしていることを匂わせている。

ちなみに、USTR(米通商代表部)が公表した対中関税リストに掲載された製品は1102品目で、4月時点で示していた約1300品目から減少している。だが、その内容をみるとロボットや航空宇宙、産業機械、自動車など「中国製造2025」で中国が競争優位を目指すハイテク分野を狙い撃ちしている。一方でテレビなどの消費財は関税対象から外されているのだ。

貿易戦争は誰の得にもならない

それにしても気になるのは中国政府が表明した米国への「強力な報復措置」である。米企業の中国国内での活動や中国市場へのアクセスを制限する等の措置が想定されるのであるが、ウォール街の市場関係者が最も恐れているのは「米国債の売却」だ。

折りしも、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げスピードの加速を宣言し、米実質金利はリーマンショック後の景気回復局面で初めてプラスとなっている。中国の米国債売りで米金利がさらに上昇した場合には株価が調整色を強める可能性があるほか、さらなるドル高進行で新興国経済に深刻な打撃を与える恐れもある。

もっとも、中国が米国債を売却した場合、人民元高を招く危険性もある。中国経済はGDP(国内総生産)等を見る限りではさほど悪いわけではないのだが、株式市場は低調で上海総合株価指数は前年比で10%近く下落、年初来の高値からの下落は20%に迫っている。そんな状況で人民元高を招くと中国経済そのものが失速することにもなりかねない。

結局のところ、貿易戦争は誰の得にもならない。現状のジャブの応酬が「ノーガードの殴り合い」にならないことを祈るばかりである。

文・スーザン・グリーン(NY在住ジャーナリスト)/ZUU online

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