JR東海にとっては“目の上のたんこぶ”が消えた形だが、状況は大して変わっていないということ。しかも、川勝氏退陣で新たな問題が一気にクローズアップされる可能性がある。鉄道業界に詳しいフリーのジャーナリストはいう。

「リニア開業については、これまで静岡県内の問題ばかり取り沙汰されてきましたが、実は他の工区でも遅れが出ています。長野県内でも工期の遅れは指摘されていますし、起点となる品川駅付近でも工事は難航していて、その他、ルート上の1都6県全てで何らかの遅滞が発生している。これまでは静岡問題が隠れ蓑(みの)になりましたが、静岡からGOサインが出ればJR東海はもう言い訳ができなくなります」

 もともと2027年開業は“絵に描いた餅”だった可能性が高いということ。「最速でも2034年」という見通しも示され、JR東海を取り囲む状況は非常に厳しい。

「工期が延びれば当然建設費はかさみ、それは料金に転嫁される。当初、リニアの料金は『のぞみプラス数百円~千円程度』というプランが提示されましたが、今では『倍近くになるだろう』という意見が大勢を占めています。そうなれば客足は鈍り、減価償却に果てしない時間が掛かる。JR東海の経営に大きな影響が出るのは間違いありません。しかもその影響はJR東海だけの問題に留まりません。JR東海が傾けば名古屋経済に影響が出ますし、あまりに工期が延びるようなら、追加で国費が投入される展開も十分にあり得る。つまり国民の税金で民間企業のプロジェクトを進めるということです。そうなれば当然、JR東海は強い批判を浴び、矢面に立つことになるでしょう。さらに、リニアは名古屋がゴールではなく、大阪まで作らないと意味がありませんが、大阪まで到達するのはいよいよ何年後か分かりません。その間にはコロナのような未曾有(みぞう)のトラブルもあるでしょうし、大地震のリスクもある。想像できないほど人口減少が進んでいる可能性もある。完成する前から“壮大な負の遺産”になる可能性がプンプンと漂っています」(同)

 ちなみに大阪のリニア開業予定は2037年だが、これも当然、大幅に遅れるはず。東京から名古屋まで40分強、大阪まで約1時間という移動時間は魅力だが、その恩恵に預かれるのが遠い未来なのは間違いないようだ。