巧みな投資家や有能な経営者に共通しているのは「損切りができること」です。損失を許容できるラインを事前に設定し、そのラインを超えると分かった時点ですぐに損切りの判断を下します。しかし損切りが正しい判断だと分かっていても、心情的に決断できない人もいます。それでは、感情や感覚に惑わされることなく、損切りができるようになるためにはどのような要素が必要なのでしょう。
損切りの判断は心理的にとても難しいこと
「損切りができない人は気持ちが弱い人」などと言われたりしますが、そのようなことはありません。なぜなら経験豊富な投資家であっても、損切りのタイミングを見誤ることがあるからです。その背景には、損得に関連して判断を下す際の人間心理が深く関係していると言われています。
そこでここでは、行動経済学で頻繁に取り上げられる「損失回避バイアス」と「プロスペクト理論」という2つの要素について解説いたします。
損失回避バイアスと損切り判断の関係性
人間は損得に関する判断が求められたとき、本能的に損をする決定や判断を回避しようとします。これを「損失回避バイアス」と呼びます。
このメンタリティーが決定に及ぼす影響力は強力です。例えば大きな利益を得るチャンスがあるとしても、損失が発生する可能性がわずかでもある場合、人は「その機会を活用しない」という選択をすることがあります。
投資やビジネスにおいて損切りをすることは「一定額の損失が確定する」ということ。これは非常に大きな心理的ストレスを生じさせます。そのときに「損失回避バイアス」が働き、損切りの判断が先延ばしになってしまい損失が大きくなってしまうのです。
プロスペクト理論が損切り判断に及ぼす影響
「プロスペクト理論」とは、行動経済学者のエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマン(2002年ノーベル経済学賞を受賞)が提唱した学説です。
人はリスクのともなう判断を下す際に、客観的なデータよりも「感情や感覚」によって判断を下すことを明確にしました。つまり人は、感情や感覚によって判断が歪められることで、理性的ではない非合理的な決定を下し、リスクを回避しようとしてしまうのです。
株式やFX投資などで含み損が発生したとき、明確な根拠がないにも関わらず「いずれ買値近くに戻ってくれるだろう」と期待して損切りをせずに待ち続ける人は少なくありません。これこそがプロスペクト理論で示されている行動原理なのです。