◆あの妖怪アニメがこんなにも愛に溢れた物語だったなんて

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
 なんで受け入れてもくれない人間なんかのことを、ずっと助けてくれるんだろう。アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』を観る度に不思議だった。

 でも、アニメ版第6期のエピソードゼロたる『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観た今なら、その理由がわかる気がする。あの妖怪アニメがこんなにも、愛に溢(あふ)れた物語だったなんて。

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
 廃村で鬼太郎に父である目玉おやじが語るのは、ある男との出会いについて。昭和31年、会社員の“水木”は、日本の政財界を裏で牛耳(ぎゅうじ)る龍賀一族当主の急逝を聞きつけ、出世のため、その葬式に出席すべく人里離れた哭倉村を訪れた。

野心と密命を背負い、東京から村にやってきた会社員の“水木” ©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
野心と密命を背負い、東京から村にやってきた会社員の“水木” ©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
 しかし、次の当主争いの最中に村で殺人事件が起きてしまう。そんな中、妻を探すため同じく村に足を踏み入れた鬼太郎の父だったが、風貌の怪しさから村人たちに容疑者扱いを受けてしまう。

 思わず彼を助けた水木は鬼太郎の父を“ゲゲ郎”と呼び、ある密命と野心のため彼と手を組むことに。ふたりはそれぞれの思惑を胸に、村の秘密に迫っていく。

妻を探すため村に足を踏み入れた鬼太郎の父“ゲゲ郎” ©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
妻を探すため村に足を踏み入れた鬼太郎の父“ゲゲ郎” ©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会
 横溝正史(よこみぞせいし 代表作『八つ墓村』『犬神家の一族』など)的世界観の因習めいた村を舞台に描かれるのは、おぞましいまでの家父長制で文字通り民の生き血をすするようにして繁栄してきた一族の罪と罰。

 喫煙シーンなどに見られるリアルな昭和描写や、閉鎖的な村のじっとりとしたおどろおどろしさ、血迸(ほとばし)るゴア描写は迫力満点であっという間に引き込まれる。

 また、復員兵である水木の過去は『総員玉砕せよ!』などにも描かれた水木しげるが実際に体験した不条理な戦場の風景そのもの。

 村にも戦場にも共通する、大義の名の元に人を人として扱わない搾取(さくしゅ)の構造はあまりにむごく、物語の端々に、戦前から現代まで続く日本の姿勢への痛烈な批判と反戦のメッセージを感じ、胸に刺さった。