2020年10月時点で新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し始めてから半年以上の時間が経過。ちまたの書店にはコロナ禍をテーマにした書籍が続々と並ぶようになりました。なかにはウィズコロナ時代をよりよく生き抜くための参考となるような教養を授けてくれる書籍もたくさんあります。そこで今回は、コロナ禍を哲学や社会学など人文学的視点から語った書籍を4つ厳選して紹介します。
1.『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』
人類がこれまで大前提としていたさまざまな条件がガラリと変化したとき、生きることの意味や目的もこれまでと同じではいられなくなります。従来の生活様式が立ちいかなくなってしまったコロナ禍も、そのような危機的状況を人類に突きつける出来事の一つだと言えるでしょう。そうしたなかで“物の見方”を提案する哲学や思想は、生きることの意味や目的をあらためて見つめ直す機会を与えてくれます。
2020年5月に刊行された『思想としての〈新型コロナウイルス禍〉』では、コロナ禍という人類の危機に対して総勢19名の思想家や批評家らがそれぞれの専門的知見から19通りの“物の見方”を与えてくれます。
コロナ禍により、これまで通り自由に行動したり人間同士が接触したりすることが難しい社会に変化してしまいました。感染を防ぐために「どこまで人間の行動や命をコントロールすることが許されるのか」「どんな未来が待ち受けているのか」といった疑問について多角的な視点から考えさせてくれる1冊です。
【基本情報】
編集:河出書房新社編集部
出版:河出書房新社
価格:単行本1,980円(税込)/電子書籍1,881円(税込)
2.『コロナ時代の哲学 THINKING「O」016号』
社会学者の大澤真幸が、自身の論文に加えゲストとの対談を通して現代社会について特集する個人思想誌『THINKING「O」(シンキングオー)』。2010年4月に創刊され当初は月刊誌でしたがその後不定期刊行誌となり2020年9月時点で計16号刊行されています。
『コロナ時代の哲学』と題した2020年7月刊行の第16号では、ゲストとして哲学者の國分功一郎を迎え世界を覆うコロナ・パンデミックについて考察。議論の出発点になるのはイタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンです。
アガンベンはコロナ禍を受けて政府がロックダウンを行ったことに対して人間の自由が制限されることを憂慮し痛烈な批判を行いました。政府によって人間が管理される社会は、たしかにとても息苦しいものです。そこではもしかしたら人間が人間らしく生きることさえできなくなるかもしれません。
しかし同時に感染拡大を防ぐ必要もあります。「アガンベンの批判は果たして妥当なのか」「感染拡大を防ぎつつ人間が人間らしく生活するためにはどのようにすればよいのか」といった問いを考えるためには必携の書物だと言えるでしょう。
【基本情報】
著者:大澤真幸
出版:左右社
価格:単行本1,430円(税込)/電子書籍1,430円(税込)
3.『パンデミック 世界をゆるがした新型コロナウイルス』
人間の自由を制限する管理社会を憂慮したアガンベンに対して「監視と処罰ですか?いいですねー、お願いしまーす!」と批判したのがスロヴェニア出身の哲学者スラヴォイ・ジジェクです。もちろん政府による監視と処罰を単純に推奨しているわけではありません。むしろアガンベンの主張を「重要な側面を解説している」と一部認めてさえいます。
しかしいくらロックダウンを批判したところでそれだけでは現実の脅威を防ぐことはできません。ジジェクはその点を突いてきます。第7章「冷静にパニクれ!」、第10章「共産主義か野蛮か。それだけだ!」などジジェクの主張は一見すると過激に感じるかもしれません。しかし正解が分からないコロナ禍の迷宮で“答え”を考える際に導きの糸となるさまざまなアイディアをもたらしてくれるでしょう。
【基本情報】
著者:スラヴォイ・ジジェク
出版:株式会社Pヴァイン/ele-king books
価格:単行本2,035円(税込)