◆「できた人間」ではない若い僧、有功を福士蒼汰が好演
さて、有功が最初に還俗を断った際に、春日局が口にしたのが冒頭に記した「上様こそ、この世で一番救われぬお方」という言葉である。これを聞いて、有功は何とも言えない複雑な表情を見せる。それはそうだろう。将軍は天下人。有功が、自身が救うべきと考えていたのは、江戸城に向かう際にも出会った、赤面疱瘡で命を落とし、僧からのお経さえ断られる少年や、理不尽に髪を切られた少女、その家族といった貧しい人々だった。
だが、第2話でも少しばかり見え始めたが、この春日局が発した言葉の真の意味を、これから有功も私たちも、知っていくことになる。そして、これを受けた際の福士のなんとも言えぬ表情がよかった。第2話クライマックスでの素振り1000回のくだりでの、さまざまな思いが去来し、やがて空っぽになっていく、瞳の激しさからの「もう、何も考えたない……」とつぶやき果てた姿などはもちろん、こうした一見ちょっとした表情に、福士が俳優として積み上げてきた力を感じる。
よしながふみによる原作コミックをすでに読んでいると、有功は、この大奥という世界において幕末まで語り継がれる、いわば神聖化された存在になっていくため、どうしても「できた人間」としてイメージしてしまう。まだ若いひとりの僧であることを、つい忘れてしまうのだ。
しかし少女・家光と響き合えたのは、すべてを包み込める「できた人間」だったからではなく、弱さや感情の揺れを抱えたひとりの人間だったからなのだということを、実写化された本作が、演じる福士が、改めて教えてくれる。そしてそうした繊細さを、技術を積み上げつつ、さらに福士自身が持ち続けていることが、本作の有功に、とても合ったように思う。
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