特に欲しいものはないけれどショッピングの雰囲気を楽しむためにデパートをウロウロ……そんな経験を一度はしたことがあるのではないでしょうか。さまざまな商品があふれかえった現代の社会は“消費社会”とも言われ、多くの人が消費そのものを楽しんでいます。そこで今回の記事では、消費社会の快楽を味わうことができる書籍を4つ紹介します。
1.『なんとなく、クリスタル』
高度消費社会の幕開けを描いた小説『なんとなく、クリスタル』は、消費の快楽をつづったバイブルとも言うべき名著として知られています。元長野県知事でもある小説家の田中康夫が一橋大学法学部在学中の1980年に発表したデビュー作です。
主人公は都内で暮らすファッションモデルの女子大生。ミュージシャンの彼氏を持ち自由奔放に生活する様子が描かれるのですが物語の内容以上に目を引くのがその文章の体裁です。
流行の最先端をいくブランドやレストランなど、若者文化を象徴する無数の固有名詞が登場し、その一つひとつに“註”が付されています。『なんとなく、クリスタル』は発表当時大きな話題を呼び、ブランドを信仰する女子大生やカタログ文化におぼれる若者が“クリスタル族”と呼ばれることもありました。
必要な商品を買うよりも他人と差をつけるために消費を楽しむ……そんな豊かな暮らしをじっくりと堪能することができる作品です。
【商品情報】
書籍名:なんとなく、クリスタル
著者:田中康夫
出版:河出書房新社
価格:
[文庫本]836円(税込)
[電子書籍]794円(税込)
2.『案外、買い物好き』
『案外、買い物好き』は、小説家の村上龍が2007年に発表したエッセイです。タイトル通り著者が買い物を楽しむ様子が面白おかしく描かれているのですが、ミラノやローマ、パリ、ハバナ、ソウル、上海、東京など世界中の都市が舞台となっていることもこの作品の特徴だと言えるでしょう。
村上龍と言えば1976年に発表した処女作『限りなく透明に近いブルー』が代表的な小説として知られています。同作品では東京都西部の福生市を舞台に在日米軍基地の近くに住む主人公ら若者たちが勝手気ままで自堕落な生活を送っていく様子が描かれている作品です。
ほぼ同世代の著者による物語でありながら『なんとなく、クリスタル』とは大きく異なる若者像が提示されていました。そんな村上がシャツやパンツ、下着などの衣類を大量に“大人買い”する様子が『案外、買い物好き』ではつづられています。
周囲の目を気にしないで「欲しい」と感じたものをとにかく購入してしまうことも消費の楽しみ方の一つだと言えるでしょう。
【商品情報】
書籍名:案外、買い物好き
著者:村上龍
出版:幻冬舎
価格:
[文庫本]503円(税込)
3.『スペインの宇宙食』
ジャズ・ミュージシャンで文筆家としても活躍する菊地成孔(きくちなるよし)が2003年に刊行したデビュー作『スペインの宇宙食』。自分のブログにつづっていたエッセイが編集者の目にとまり単行本としてまとめられることになった作品です。
料理や映画、文学など消費社会ならではの楽しみを虚実織り交ぜた華麗な文体で書き上げる筆力が痛快。著者が音楽家ということもあり、ミュージシャンの話題や自身のグループ「DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN」のコンセプトの解説なども収録されています。しかし音楽の知識がなくてもテキストとして面白く読むことができるのも本作品の特徴です。
著者は匿名掲示板やSNSをほとんど見ることがなく、インターネット自体が麻薬のようなものだとさえ言います。ブログのエッセイだった本作品は、きっと読者の消費の欲望をかき立ててくれるでしょう。
【商品情報】
書籍名:スペインの宇宙食
著者:菊地成孔
出版:小学館
価格:
[文庫本]723円(税込)
[電子書籍]715円(税込)