◆「自分を悪だとも思ってもいない悪」こそ恐ろしい

『ウィッシュ』より
 さらに、彼は「与え、与え、与えまくれば、満足だろう!? だが忘れるな、感謝の気持ちを! なんて無礼な! 恩知らずめ!」とまで歌う。実際には国民を搾取している立場のはずなのに、むしろ「与えている」と自負し、それについて感謝しないことを「無礼」だとさえ思っているのだ。

 マグニフィコ王はいわば「自分を悪だとも思ってもいない悪」だ。「お前のほうが悪いじゃん? 何を言っているの?」というように、相手に平然と問題や責任をなすりつける者こそ、真の邪悪なのだとも思わせる。

 他の作品で言えば、たとえば映画『孤狼の血 LEVEL2』(2021)に出演した鈴木亮平は「私自身がいちばん怖いと思う人は、『自分を悪いと思っていない人』だと思い至りました」と語っており、その通りの恐ろしい悪役を見事に演じていたこともあった。

 逆に言えば、「自分の行いが善か悪か、正しいか間違っているかで悩み、時にはわからなくなる者」は、善良だという証拠でもあるのかもしれない。その問いかけは、近年では映画『イコライザー THE FINAL』(2023)の劇中でもされており、それもひとつの真理だろう。