「通常のモノづくりであれば、大きいものにはスケールメリットが働きますが、超高層ビルにはそれがありません。強度や防災などの条件が厳しくなりますし、特殊な工法を使うなど、建築方法も“普通のビル”とは違うので、それができるゼネコンは少ない。階数が増えても割安になることはなく、高くなれば高くなるほど、むしろ単価は上がります。たとえ日本一の超高層ビルでも、家賃は立地や広さで決まる相場があるので、かさんだ建設費をすべて家賃に乗せることはできません。50階以上の超高層ビルともなると、計画が一旦スタートしたら当然引き返せませんし、総事業費は数千億円ですから、何かが起きれば一気に会社が傾きかねない。“日本一”という称号があるせいで、テロや無差別犯罪などの標的にされるリスクもあります。ハイリスク・ローリターンとしか言いようがありません」(大手不動産会社社員)
そういうことであれば、超高層ビル開発はそろそろ打ち止めなのか?
「技術的には、まだまだもっと高いビルを建てることは可能です。そうなると“日本一”という称号を欲しがる人は必ず出てきます。そのビル自体は社内のお荷物だったとしても、“日本一のビルを建てた会社”という実績は、営業トークでは絶対的に強い。開発業者は必死に開発の目的や意義を語りますが、結局は『あれはウチが建てた』と言いたいだけですよ。しかし、先の状況が見えない世の中で、10年単位のプロジェクトをやるのは完全にギャンブルです。日本は地震、津波、台風など複数の天災リスクがあり、首都圏であれば富士山噴火の可能性もあって、未知数な部分が多すぎる。それらが発生しなくても、コロナのような想定外の事態が起きれば、需給は一気に変わりますし、株価が急落して社の信用度が地に落ちるようなことも考えられます。エネルギー問題、少子化、気候変動、金融危機など、あらゆる要素がリスクになり得るだけに、超高層ビル計画が持ち上がると、同業他社の人間は妬みも込めて『よくやるね』とつぶやいています」(中堅ゼネコン幹部)
昔から「◯◯と煙は高いところに上りたがる」と言うが、日本一高いビル争いはいつまで続くか。