「脈拍80、呼吸数12回、サチュレーション98%、バイタル安定してます!」

 冒頭、拳銃で腹部を撃たれたニノさんが救急車で運ばれています。口には、何かの機械にチューブがつながった吸入器。そして、救急隊員が緊迫感のある声で、冒頭のセリフをしゃべるわけです。

 脈拍80、正常。呼吸数12回、正常。サチュレーション98%。サチュレーションというのは新型コロナウイルスが日本中を席巻していた時期によく話題になっていた血液中の酸素飽和度のことですね。指先を洗濯ばさみみたいなので挟んで計るやつ。正常値が96%~99%とされていますので、ニノさんの98%は、もちろん正常。救急隊員がバイタル安定してますと言っている通り、ニノさんは健康です。

 では、なぜ救急車で運ばれているのか。それは拳銃で腹部を撃たれたからです。でも、実際には撃たれてないんです。すぐ脱走するからね。撃たれてないから、バイタルも安定している。健康である。では、なぜ救急車で運ばれているか。拳銃で腹部を撃たれたからです。撃たれてないのに。救急隊員は腹部を撃たれたと言っているニノさんと、撃ったと言っている江口洋介の言葉をそのまま信じて、患部を目視することもなく、銃創に対する応急処置について検討することもなく、ただその手に塗りたくったケチャップを流れ出た血液だと信じて、撃たれた部位の服を脱がすこともなくニノさんをストレッチャーに乗せて救急車に運び込んだ。