日本の社会保障制度は「時代が求めた制度」

もう一つ、日本の社会保障制度が優れているのは「国民皆保険・皆年金体制」であることです。これも当たり前と思われるかもしれませんが、世界的にはあまり例を見ない制度です。また、日本の社会保障制度は保険料と税金だけでなく、公費も投入して運営しているのも大きな特徴です。

日本の社会保障制度の根幹である「国民皆保険・皆年金体制」が確立されたのは戦後16年となる1961年のことでした。敗戦で日本の社会制度は崩壊し、すべてを失いました。文字通りまったくのゼロから立て直したのです。しかし、逆説的にいえばすべてが崩壊し、ゼロからスタートしたからこそ、この類例を見ない制度を確立できたのかもしれません。もちろん、崩壊したのは社会制度だけではありません。敗戦で経済的にも崩壊し、ほとんどの国民が貧しく、明日の食糧を確保することさえままならない時代でした。そんな時代だからこそ「国民皆保険・皆年金体制」が生まれたのではないでしょうか。これは「時代が求めた制度」とも考えられます。

たとえば、21世紀の現在の日本で「国民皆保険・皆年金体制」をつくろうと思っても、なかなか難しいように思います。格差社会と呼ばれて久しい状況では、所得の多い人から不満の声があがることが予想されるからです。そう考えると日本の社会保障制度は「時代のニーズ」に合わなくなっているのかもしれません。実際問題として「国民皆保険・皆年金体制」ができて半世紀が過ぎています。敗戦直後に比べると日本社会の有り様もずいぶんと変わりました。制度疲労を起こしても何ら不思議ではありません。

時代の変化とともに「柔軟な調整」が必要

「時代のニーズ」に合わないといえば、介護保険料も制度が始まった2000~2002年度に比べほぼ2倍の水準になっています。介護や支援が必要だと認定された65歳以上の人は2017年末で629万人に達し、この3年間で41万人も増えているのです。今後もどんどん増えるのは間違いありません。

どんなに素晴らしい制度であっても、時代の変化とともに柔軟に調整する必要があります。「人生100年時代」を迎え、日本の社会保障制度は大きな転換期を迎えているのではないでしょうか。

これからの時代「高齢者がどんどん増えて、若い世代がどんどん減少する」ことを大前提に置いて社会保障制度を見直す必要があります。高齢者もできるだけ社会に参加して、若者の負担を軽くするように努めることが求められます。年齢に関係なく誰もができるだけ長く、楽しく働くためにはどうすれば良いか、「働き方」そのものも根本的に見直す必要もあるでしょう。日本の社会保障制度の課題は山積みで簡単に答えを見つけるのは難しいかもしれませんが、私たち国民一人ひとりが真剣に議論をする時を迎えているのです。

文・長尾 義弘(NEO企画代表、ファイナンシャル・プランナー、AFP)

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