◆なんだか東山紀之がいつもと違った
「チョコレートドーナッツ」は、2012年に公開された映画の舞台化である。1979年、カリフォルニアに生きるLGBTQのカップルが、ダウン症の子どもを引き取る。それぞれ生きづらさを抱えている3人が寄り添って幸せに暮らしたいだけなのに、世間は偏見をいだき、3人を引き裂こうとする。胸を絞られるような物語である。
舞台版は2020年に初演されたが、コロナ禍で一部公演が中止になり、世間的にも作品をじっくり評価する余裕はないという不運に見舞われての今回の再演である。ところが今回は、東山の進退問題が……。
翻案・脚本・演出の宮本亜門は再演のパンフレットでこう語っている。“台本の谷賢一さんから代わったことや、東山さんの社長就任などで、上演が危ぶまれ、不安な日々が続きました”。谷は演劇活動におけるセクシャルハラスメントが問題になっていた。人生に様々な苦難が降りかかるのは、物語のなかだけではないところがなんとも皮肉である。
「チョコレートドーナッツ」で東山紀之が演じるのは、主人公で、歌手を目指し、ショーパブで働いているルディ。ショーを見に来た検察官のポールとたちまち恋に落ちる。ポールを演じるのは、岡本健一の息子・岡本圭人。旧ジャニーズ、先輩後輩の共演である。
原作にも沿い、純粋によくできた物語なので、劇中劇のショーの場面の歌や踊りを楽しみながら、物語の深いテーマに思いを馳せ、登場人物の心情に心を寄せることができる。実際にダウン症の子供を子役に起用し、彼らののびのびとした演技には目からウロコが落ちる思いがした。
映画でルディを演じたアラン・カミングのイメージと東山紀之がかけ離れて過ぎてはいないかと見る前は思っていたが、それも杞憂(きゆう)に終わった。なんだか東山紀之がいつもと違ったのだ。