「無意識バイアス」という言葉をご存知だろうか。大人になるまでのプロセスで形成され、本人も気付かないうちに自分の意思決定を歪めてしまうバイアスのことだ。

無意識バイアスを可視化し、コントロールする方法を学ぶプロダクト『ANGLE』の開発統括を担う、チェンジウェーブ取締役副社長・藤原智子さんと、セールスを担うプログラムコーディネーターの菅瀬百友子さんは、「この無意識バイアスは精神的に不安定なときに発動しやすく、コロナ禍のような先が見えない状況では、特に注意してほしい」と呼び掛ける。

『ANGLE』は企業向けの研修ツールだが、コロナショックを受けて、無意識バイアスの認知を高めるべく、期間限定で個人にも一時期無償提供されていた(現在は申し込み終了)。

不安な状況下で無意識バイアスが発動しやすくなるのは何故なのか。また、 平常時ではない今、転職などの大事な決断をする人も多いかもしれないが、そのときに気を付けるべきこととは何か。藤原さん、菅瀬さんに話を聞いた。

藤原さん写真左:株式会社チェンジウェーブ 取締役副社長 藤原智子さん 早稲田大学第一文学部卒業後、リクルート(現・リクルートホールディングス)に入社。 人材領域の営業としてベンチャー・中小企業から大手企業まで担当。 企業の経営戦略における人材戦略(主に採用領域)推進を伴走する。 その後商品企画、パートナー代理店渉外へとキャリアの幅を広げた後、営業企画として全国の30の都道府県エリア担当営業部の企画統括の責任者となり営業戦略立案・推進と組織改革に取り組む。途中二度の育休を取得。人を信じ共に伴走することであらゆる人が力を最大限発揮できることを体感し、そのような支援を数多く実行すべく、チェンジウェーブに参画

写真右:株式会社チェンジウェーブ プログラムコーディネーター 菅瀬 百友子さん 上智大学卒業後、横浜市に入庁。 障がい者支援施設の助成制度設計、企業誘致施策立案・実施等に取り組んだ。 ソフトバンク株式会社への出向時には、法人営業にも携わる。 チェンジウェーブへの参画は「社会課題の変革を担う存在になりたい」と考えたことから。 行政の一翼として福祉施設運営に携わる当事者の想いに触れ より本質的な解決を図る伴走者でありたいとの思いを強めた

「無意識バイアス」は一生なくならない。大切なのはコントロールすること

そもそも無意識バイアスとは、どういうものなのだろうか?

藤原さん:「考え方の癖」や、「自分で気付かない思い込み」とご説明しています。生まれ育った環境で培われたバイアスは、無意識の内に意思決定に影響を及ぼすことが分かっています。

 

例えば、企業の意思決定の場面で無意識バイアスが発動した場合、女性活躍やダイバーシティ施策の推進に悪影響が出やすいと言われている。

よくあるのが、「リーダーとは男性的な役割であって、女性はサポート業務に適している」という無意識バイアスだ。これが上司の中で発動すると、“女性ならでは”の業務を女性の部下に付与しがちになる。

上司自身は、男女平等に接していると思っていたとしても、こうした無意識バイアスはふとした瞬間に表に出てきて、歪んだ意思決定を生み出してしまうのだ。

他にもさまざまな無意識バイアスがある。「非正規社員はモチベーションが低い」「仕事と家庭の両立は難しい」「長時間働くことで成果が出る」など……。読者の中には、「今どきそんな古い考えはあり得ない。自分は無意識バイアスは持っていない」と思った人はいないだろうか?

「残念ながら無意識バイアスは全ての人に存在します」と菅瀬さんは語る。

菅瀬さん:無意識バイアスは5歳までにできたらもうなくならないと言われている、「あって当たり前」のものです。無意識バイアスは存在すること自体が悪いのではありません。大切なのは、存在を受け入れてコントロールすることです。

 

ところが日本人には、無意識バイアスの存在自体を、素直に受け止められない人が多いという。

藤原さん:肌の色も宗教も国籍も違うことが当たり前の諸外国では、全ての人が無意識バイアスを持っているという事実はほとんど抵抗なく受け入れられます。

それに比べると日本人は、比較的要素が共通しているために、「バイアス=悪いもの」と思い込みやすく、自分にそんなものはないと考える傾向が見受けられます。それではなかなかコントロールする段階まで辿り着けません。

無意識バイアスの影響を抑える第一歩は、「自分の中にも無意識バイアスはある」と認めること。職場だけでなく日常生活でも注意したいポイントだ。

 

外出自粛の思わぬ副作用。“情報の偏り”に注意して

無意識バイアス

「平常とは異なる状況では、無意識バイアスが発動しすい」と藤原さんは語る。

藤原さん:例えば目の前に猛獣がいたとすると、誰でも「やばい」と思って逃げるじゃないですか。それと同じで、不安な状態のときは生存本能が活発になるので、直感=無意識バイアスが働いてしまいがち。冷静な判断が難しくなるんです。

 

ピンチの時ほど、もともと持っていた信念や物の見方の偏りが出てきてしまうーー。コロナ禍の今はまさにそんな状況だ。

また外出自粛は、無意識バイアスがさらに強化されやすい状況をつくり出していると、菅瀬さんは指摘する。

菅瀬さん:職場にいれば、噂話も含めていろんな情報が入ってきますよね。でも今は一人一人がバラバラな状態。直接人と会う機会がなくなると、自分が取りに行く情報だけを見るようになります。

今は多くの人が、意図せず触れる情報が極端に少ない状況に置かれているんです。

 

さらに厄介なことに、人には「見たい情報ばかりを選んでしまう」性質があるという。

藤原さん:まず、自分が信じていることを確認するために、自分の考えに合った情報ばかり見たくなる「期待確証バイアス」が働きます。

そして、似た者同士の意見を取り入れることによって、自分の考えは正しかったんだという考えがどんどん増幅する「エコーチェンバー」の状態に陥る。外部から入ってくる情報が少ないと、このように思い込みが強化されやすくなります。

ついSNSで似た考え方の人ばかりをフォローして、自分と同じ意見が目に入ってくると安心する……。多くの人に思い当たる節があるのではないだろうか?

後悔のない判断をするためには、客観的な意見を取り入れた適切な情報収集が必要だ。

転職であれば、キャリアアドバイザーなどのプロに相談するのもおすすめ。普段は触れないメディアや人から積極的に情報を集めることで、“情報の偏り”が生まれやすい状況を回避できる。