ドラマはこの「冷蔵庫のコンセント抜け事件」を、アクシデントとして扱います。むしろ、シェフや洋食屋のスタッフたちを不幸な天災か何かの被害者として描いている。普通に考えて食材の管理はシェフにとって重要な仕事のはずです。ソースをひっくり返したのは、まだ変な逃亡者がお店に乱入してきたからしょうがないとしても(これも全然しょうがなくないんだけど)、冷蔵庫のコンセントが抜けてるっていうのは、これはもうダメでしょう。たかおさん、オーナーシェフだからいいものの、雇われだったら即刻クビですよ。

 しかも、シェフたちが冷蔵庫のコンセントが抜けていることに気づいたのは、朝です。ドラマは前夜12時から始まっていて、シェフはずっとこの洋食屋にいました。厨房の壁一面に並ぶホシザキの業務用冷蔵庫からは、断続的にインバーターやファンの動作音が聞こえてくるはず。普段聞こえるその動作音が聞こえないことに、シェフが気づかない理由がない。騒音より静寂のほうが、人が感じる違和感は大きいに決まってる。

 もっと言えば、仮にソースの鍋をひっくり返さなかったとしても、食材がダメなんだからクリスマスディナーの営業はできてないことになる。シェフは「シェフ失格だ」と頭を抱えるべきだし、スタッフはシェフに軽蔑のまなざしを向けるべきなのに、全然なんかそんな感じじゃない。

 以上が、設定としての手落ち。