コロナ禍で各大学の休校が長期化するのに伴い「大学の入学時期を9月に移行するのはどうか」という議論が巻き起こりました。世界では9月入学が主流のため、「日本人学生の留学や海外からの留学生の受け入れがスムーズになる」というメリットがある一方で“9月入学”にはどんな問題点があるのでしょうか?

9月入学を求める高校生たちが署名活動

休校期間が長引き新年度に入ってから一度もキャンパスに足を踏み入れていない学生も多いことでしょう。全国の大学がオンライン講義に踏み出したものの、やはり大学側も学生側も手探り状態のため問題は山積みです。「通信環境の不具合」「対面型の講義に比べると内容が劣るように感じられる」など、不満の声を上げる学生も現れています。

これらを踏まえると「9月に入学時期をずらして体勢を整えた状態で授業ができるようにする」という提案の有効性は高いものと感じられるでしょう。

実際に大阪府の高校生を中心に「日本すべての学校の入学時期を4から9月へ!」と求めるオンライン署名活動が行われて2万3,000人以上の署名が集まりました。かねてより日本の大学は国際化が遅れていると言われています。

確かにグローバルスタンダードとは異なる入学時期のせいで、海外から日本への留学も日本から海外への留学もしにくい一面があるかもしれません。

英国の教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が発表した「THE世界大学ランキング2020」では、トップ200にランクインした日本の大学は東京大学(36位)と京都大学(65位)の2校のみでした。もし9月入学に移行した場合は、ランキング結果もまた変わるのでしょうか?

また国際基準と足並みがそろうということ以外にも「大雪やインフルエンザの心配がある真冬に入試を行う必要がなくなる」というメリットもあります。

ちなみに日本でも明治時代初期は9月入学でしたが、徴兵令の改正などの関係により4月入学制へと変化しました。そのため「慣れたものから新しい制度に変わる」と思い込むより「明治時代初期の形に戻る」と考えれば、制度変更への抵抗感も薄れるかもしれませんね。

9月入学で就活のあり方も変わる

9月入学移行案に対しては、希望する声だけでなく反対する声もあります。先ほど9月入学について「入学時期をずらし体勢を整えた状態で授業ができるようにする提案」と表現しました。しかしよく考えてみると、9月であれば“体制を整えた状態”で授業をすることができるのでしょうか?

2020年5月25日に47都道府県すべての緊急事態宣言は解除されたものの、今後感染の第2波、第3波が発生することは十分考えられますので、依然気を抜くことはできません。つまり「9月になれば授業が再開できるはず」というのは希望的観測に過ぎないのです。

また「ただスタート時期をずらして同じカリキュラムで講義をすれば、それで終わり」というものでもありません。例えば就職活動はどうなるでしょうか?2020年6月時点は4月入学・3月卒業に合わせて就活シーズン、入社日などが設定されています。

しかし9月入学になると“就活”のあり方も再構築せざるをえないことから、ひいては経済活動にも影響を及ぼす可能性も出てくるでしょう。また各種国家試験のスケジュールなども変更しなければなりません。

他にも政府の会計年度とズレが生じるため、手帳業界も新たに9月始まりの商品を作るなどスケジュールの再調整が余儀なくされるでしょう。

小中高においては、学校行事の日程調整を1からやり直すことになります。さらに未就学児は、生まれ年によっては年長を飛ばしていきなり小学1年生になる可能性が報じられたため、保護者から反対の声が続出しました。

9月入学に移行するために必要な膨大な作業量を鑑みると、少なくとも2020年9月からの実施は難しいことが理解できるのではないでしょうか。

急ピッチで施策を進めたところで、ただでさえ混乱している教育現場にさらなる負荷をかけてしまうだけの結果になりかねません。