問題は、リスクに見合った「リターンを期待できるか?」

リスクテイクすべきか判断をする際には、それに見合ったリターンを期待できるか、すなわちリスクとリターンの「バランス」について考えることも重要です。これを「リスクリワード(リスクリワードレシオ)」と呼びます。

たとえば、株式投資で損切りのレベルを-10%にすると同時に、利益確定のレベル(リターン)を何%にするか決めます。人によってその「バランス」は様々で、一概にこれが正解とはいえません。「20%のリターン」を想定する人もいれば、「200%のリターン」を望む人もいるかもしれません。

「リスクリワード」は投資の世界では一般的なのですが、私たちの日常生活、人生においても役に立つ概念です。「損して得取れ」ということわざもありますが、損に見合った得を期待できるかが重要なのです。リスクテイクを検討する際にはリスクとリターンについて、できる限り具体的にイメージするように心がけましょう。

「リスクヘッジ」のやり過ぎにご注意を!

ところで、日常生活のリスク要因について、保険の加入等で対処する人も多いと思います。これを「リスクヘッジ」と呼びます。たとえば自動車を運転する行為は、交通事故のリスク要因となります。どんなに運転技術の優れた人でも交通事故のリスクをゼロにすることはできません。そんなもしものときに備えた「リスクヘッジ」として有効なのが自動車保険です。

では、日常生活のリスク要因にはどのようなものがあるのでしょうか? 平成26年度の世論調査によると「日常生活での悩みや不安」について、不安を感じている割合は66.7%に達します。その主な内訳は「老後の生活設計について」が57.9%、「自分の健康について」49.7%、「家族の健康について」41.9%、「今後の収入や資産の見通しについて」41.0%……となります(複数回答)。健康についての悩みが本当に多いですね。

私はFPとして相談を受ける機会が多いのですが、確かに上記の世論調査と重なる部分が多いです。ただ、気になるのは相談に訪れる人の中には「リスク」を必要以上に恐れてしまい、驚くほど高額の生命保険に加入しているケースも珍しくないことです。「リスクヘッジ」はとても重要な考え方なのですが、やり過ぎは経済的にかえって大きな損失を招くことにもなりかねません。

リスクは恐れるものではなく「管理」するもの

保険のなかでもっとも新規契約数が多いのが医療保険です。しかし、その心配は、本当に「リスク」と呼べるのでしょうか?

日本の健康保険制度は非常に優れており、その手厚さは先進国でもトップクラスです。誰でも平等に医療を受けることができます。自己負担は3割で、しかも治療費が高額になった場合でも「高額療養費制度」が設けられており、一定以上の自己負担にならないように配慮されています。長期にわたって治療のために仕事ができなくなった場合には、傷病手当金がありますし、障害状態と認められれば、障害年金を受け取ることもできるのです。

私はFPとして多くの人の「悩み」と向き合ってきました。その中で強く感じるのは「日本の社会保障制度」をきちんと理解している人は意外と少ないことです。入院をしたら、お金がたくさんかかるという「漠然とした不安」を抱いてしまいがちで、やみくもに高額の医療保険に入っている人が多いのです。先の世論調査で「健康」に対する不安が大きいのは、日本の社会保障制度をきちんと理解せず、リスクと正しく向き合っていないことの裏返しではないのでしょうか。想像以上に多くの人が「過剰なリスクヘッジ」に走っているのではないかと危惧しています。

社会保障制度を理解し、それでも足りない部分を民間の保険で補うという考え方が「正しいリスクヘッジ」なのです。人が不安になるのは「未来が不確実」だからです。ある程度具体化したイメージを抱くことができれば、その不安は不安でなくなるのではないのでしょうか。

今回は「人生のリスク管理」をテーマに、(1)リスクテイク、(2)リスクリワード、(3)リスクヘッジの3つの考え方について紹介しました。リスクとは恐れるものではなく、「管理するもの」なのです。

文・長尾 義弘(NEO企画代表、ファイナンシャル・プランナー、AFP)/ZUU online

【こちらの記事もおすすめ】
女性を超える関心度!?「オトコの美活」意識調査結果
住宅ローン控除(減税)をフル活用するための基本の「き」
実はハイリスクなライフイベントTOP5。転職、住宅購入、結婚……
2018年マンションの「駆け込み」需要が起きるってホント?
じぶん時間がもっと増える「ちょこっと家事代行」3選