災害跡地を高級住宅で埋めたニュージャージー

低・中所得層の家計を圧迫しているのは保険料や修繕費だけではない。住宅価格の高騰が固定資産税を押し上げているのだ。

ニュージャージーのスタッフォード・タウンシップでは、2002年、「サンディ」が住宅3000軒を破壊した。開発者は被害に利益創出の機会をみいだし、災害以前よりも大型で、価格の高い住宅を建てた。その結果、低・中所得層に代わり、高所得層が流れこむこととなった。

スタッフォード・タウンシップ市長によると、かつて20万~30万ドル(約2186万~3280万円)あれば家が買えたが、現在は2.50~3.75倍の資金が必要だという。 

新たに建てられた住宅数は、災害で崩壊した家の70%相当—つまり災害前より住宅数は少ないはずだが、住宅価格が跳ね上がったため、固定資産税収は災害前と同じ水準に戻っている。

2017年の「ハービー」では、ヒューストンで1500戸の公共住宅が破壊された(住宅都市開発省調査)。地方住宅当局には修繕や再建の義務はなく、現在までに積極的な動きもみられない。このままなんの対応策も投じられないのではないかと推測される。

2008年、「ドリー」と「アイク」の被害を受けたテキサスでは、1260戸が修復・再建されたものの、569戸が崩壊したガルベストン市ではおよそ半分しか修復・再建されなかったという。

こうした状況下では、低・中小企業層はよりコストの低いほかの都市へと流れていくしかない。

「気候高級化」とは?

南カリフォルニア大学で気候変動を研究する経済学者、マシュー・カーン教授は、「気候高級化」について興味深い分析を行っている。「gentrification」とは、再開発を通して貧困層が多い地域に裕福な層を誘致した結果、地域経済や社会構成が変わる都市開発現象を指す。

通常の高級化は地方議会や都市開発業者が火付け役だが、カーン教授は同じ現象が気候によって生じていると指摘している。そして気候高級化は人々を魅了する沿岸地域にのみみられる現象で、人気のない沿岸地域では起こらないというのだ。

つまり高所得層が流入するか否かは、災害に見舞われるリスクよりも、その土地での生活が魅力的か否かに大きく左右される。高所得層は災害の懸念があっても、生活の贅沢を満喫するためなら投資を惜しまず、人気の沿岸都市はどんどん高級化されていく。やがて元から暮らしてきた低・中所得層は、より生活費の低い地域への移動を余儀なくされる。

この辺りは、ロンドンやニューヨークなどでみられる大都市高級化現象と共通するものがある。住宅費や生活費の高騰で、低・中所得層が郊外へと流され、都心に経済的に余裕のある富裕層が集まる現象だ。

フロリダの社会事業団体カタリスト・マイアミのグレッチェン・ビーシングCEOは、気候変動は環境だけではなく、貧困と個人の財政的保証にとって重要な問題である点を指摘している。

またハーバード大学の調査からは、洪水への懸念から、高い場所に建てられた住宅への需要が高まっていることも分かっている。今後「高い場所」で高級化が始まるかもしれない。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)/ZUU online

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