「自己負担の医療費や関連費用は貯蓄で備えておいたほうがよい」説

社会保険の仕組み上、医療費の負担が青天井で高額になる可能性は高くない。長期間仕事を休んだサラリーマンの収入が、急に途絶えることもまずない。

高額療養費の限度までの自己負担額、それから公的医療保険では支給されない交通費や入院に掛かる雑費(衣料品や差額ベッド代など)は、貯蓄で備えることも十分可能だ。

必要な貯蓄額は人によってもちろん異なる。まず被用者保険と地域保険とで休業補償の有無が分かれるので、サラリーマンと自営業者では違いがある。また、大企業だと公的医療保険以上に手厚い給付を行ってくれることもあり、この場合は必要な貯蓄はさらに少なくて済む。

仮に高額療養費上限の医療費と一日数千円の支出で6カ月間闘病するとし、休業補償がないとすると、大体100万円程度が必要となる。1年を想定するなら倍の200万円だ。大体100万単位の貯金が目安となるだろう。

「今までの医療保険は“使い勝手が悪い”ものも多い」説

医療保険に加入して保険料を支払っても、給付を受けるのは保険契約で決まった条件にあてはまるときだけだ。

例えば、今の医療保険は入院や手術に対する給付が主であり、入院や手術を伴わない通院での医療費がいくらかかっても保険金は支払われない(入院や手術後の通院ならば支払われるタイプもある)。また、1回の入院について支払い日数の限度がある(60日や120日などであることが多い)。

また保険によって疾患の定義が微妙に異なることもある。同じ心疾患でも保険商品によって給付対象となったりならなかったりする。また、医療保険を単体で購入せず、生命保険の特約で医療保障をつけている場合などは、保険料の払込期間しか保障されないことが多い。病気が気になる年令になったとき、使えなくなることもあるのだ。

月に数千円の保険料でも、ずっと払っているうちに保険料の総支払額は100万円以上の金額となることもある。この金額を給付が契約で限定される保険商品の購入にあてるのではなく、自由に使える貯蓄に回したほうが合理的だ。病気になれば医療費として使えばいいし、病気にならなければ他のことに好きに使うこともできる。

したがって、「わざわざ不自由な医療保険」に加入する必要はない」というのが不要論を唱える人たちの論拠だ。

医療保険必要論の根拠とは

反対に医療保険が必要な根拠とはどのようなものだろうか。ここまで述べてきた「不要論」を裏側から見たものとなる。

「社会保険は万能ではない」説

医療費を一定額に抑えられる高額療養費制度には、実は落とし穴がある。暦の上での月をまたいで合算することができないのだ。同じ月なら上限額までの負担で済むものも、月をまたいでしまうとふた月分それぞれについて上限額を超えなければ払い戻されないのだ。

また高所得者は上限額も高い。標準報酬月額53万~79万円(年収約770~約1,160万円)では上限額は「16万7,400円+(医療費−55万8,000円)×1%」となる。これより高所得だと「 25万2,600円+(医療費−84万2,000円)×1%」だ。長期にわたると、多数回該当でそれぞれ「9万3,000円」「14万100円」となるが、それでも経済的には大きな出費となる。

また、高齢化で社会保障制度は厳しい状況にある。近年でも所得の多い高齢者の自己負担割合が、現役世代並みの3割となる制度改正があった。高額療養費は深刻な病人向けの制度なので改悪の恐れは少ないが、必ずしも安泰とも言えない。

そして、そもそも社会保険は被用者には手厚いが、自営業やフリーランスには休業補償などがない。社会保障の助けがもともと手薄な人もいる。こういう人は医療保険で備えることも考えるべきだろう。