なんでも簡単に手に入る時代だからこそ時間と手間をかけて作り上げる伝統文化の美しさや魅力を知ってもらえたら嬉しい
「バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫」。タイトルの『バカ塗り』とは「津軽塗」のことを指す言葉で、完成までに四十八工程あり、塗っては研ぐを繰り返すことを指す。「インパクトある言葉ですよね」と、堀田さん。
「私もタイトルを目にしたときは、“一体どういうこと?”と思いました。でも、台本を読み進めていくと津軽塗の作業をする工程がとても丁寧に何ページにもわたって書かれていて。セリフもなく、ただ淡々と時間をかけて、津軽塗というひとつの作品を作っていく様子を読みながら、きっと静かながらも熱い情熱に満ちた作品になると思いました」
実際、出来上がった作品を見た感想はその通り、いやそれ以上に静かだけれど情熱的で、そして優しさに包まれた作品になったと続ける。
「初めて感じる気温や湿度、匂いを全身で感じながら、青森の弘前で撮影する日々は、かけがえのないものになりました。弘前の方々は本当に優しいんです。撮影をしていると、近所の方がその日に採れたばかりのフルーツや野菜を届けてくださったり。まるで実家に帰ってきた娘のように私のことを受け入れてくれる弘前の温かさがスクリーンからも伝わると思います」
堀田さんは美也子を演じるにあたってこれまでロングだった髪の毛をバッサリとカット。
「25センチくらい切りました。思い切って切ったことで、自分が美也子に近づいた感じがすごくありました。監督の中には明確な美也子像があったので、それに委ねつつ、私は撮影中はずっと弘前に滞在して自転車でお散歩したり、ごはんを食べたり(笑)。弘前で暮らした日々が役作りに繋がっていたと思います」
劇中では実際に津軽塗を披露。現役で活躍する津軽塗職人さんから手取り足取り指導を受けたのだとか。
「難しいと思う工程もありましたが、職人さんの“正解なんてないから自分のやり方でやればいい”という言葉に気持ちが軽くなりました。基本的なことを教えてもらったら、あとはゆっくりと流れる時間に身を委ねる。そんな時間が本当に贅沢で。今は機械化・自動化が主流で、新しいものが次々と生まれている時代だからこそ、改めて日本工芸の美しさや尊さと、それを伝授していくことの難しさを知りました。観てくださる方も、この津軽塗を通して繋がる家族の物語から、何かを感じてもらえたら嬉しいです」
やりたいことが見つからず、自分に自信が持てずにいる美也子。津軽塗の道へ本格的に進みたいことも言い出せず...。そんな美也子と堀田さんの共通点は?
「私は子供の頃からやりたいことは全部やらせてもらえました。バレエにピアノ、そろばん、水泳に習字。あと英会話と塾も。やりたいことが多すぎて“それ以上は時間が足りないよ”と言われるようなタイプ(笑)。なので、美也子とは似てないかなぁ。でも、真正面から人とぶつかるのはあまり得意じゃないので、もし「ダメ」と言われたらその場から逃げてしまうかも。そんなところは美也子と似ているかもしれません」
やりたいことが見つからないという人にアドバイスを送るとしたら?
「私もふと時間ができると、何をしたらいいんだろう?お芝居以外に楽しめることがない…と、自分の趣味がわからないときがありました。でも、そんなことを考えながらも現場から家まで歩いて帰ってみると色んなものが目に入るんです。あのお洋服かわいいとか、新しいお店ができてるから寄ってみようかなとか。何かに興味を持つきっかけはどこにあるかわからないですし、どこにでもあると思うので、まずは外に出てみることは大事だと思います」
最後に父親役の小林薫さんとのエピソードを伺うと。
「以前、一度ご一緒したときに、薫さんが“かっこ悪いことをしていることがかっこいい”とお話されてたのがとても印象的で。インタビューなどで印象に残っている言葉を聞かれるとその言葉を答えてきたんです。きっと薫さんは覚えていないでしょうし、今それを言っても“俺、そんなこと言ったっけ?”って笑うと思いますけど(笑)。今回改めて父と娘、まして師弟関係という、こんなにも濃厚で長い時間をご一緒させていただけるのはとても幸せでした。最初はギクシャクしていた父娘関係が津軽塗を通してどう変わっていくのか、そこにも注目して観ていただけたら嬉しいです」
©2023「バカ塗りの娘」製作委員会
「バカ塗りの娘」
監督/鶴岡慧子
出演/堀田真由、小林薫、坂東龍汰、宮田俊哉他
公開/8月25日(金)青森県先行公開
9月1日(金)シネスイッチ銀座ほか全国公開
Photo / Ryuta Seki
Styling / Arata Kobayashi(UM)
Hair&Make / Hiromi Ozasa
Text / Satoko Nemoto