◆驚きと発見が限界突破する演技

 実際、坂口健太郎の演技は、ワクワクがとまらない。いや、ワクワクどころか、驚きと発見が限界突破する。つい最近の主演映画である『サイド バイ サイド 隣にいる人』(以下、『サイド バイ サイド』)は、冒頭から、観客の目を釘づけにした。

 走行するバス車内。激しく移ろう車窓を背景として、坂口がとらえどころのない表情を浮かべる。横顔、正面、どこから見ても完璧な佇まいでフレームの中におさまっている。坂口の顔、顔、顔。この冒頭の演技を見て、胸のザワザワがとまらなかった。

 これは何かがはじまる。坂口が映る画面に、いちいち驚き、そのひとつひとつを点検するうち、これが映画の力なんだなという発見にいたる。食卓で少女が伸ばしたちいさな手をはむっとする姿や坂口がシンクで洗う野菜たちの鮮やかな色合いなど、ほとんど衝撃映像に近い瞬間ばかりだった。