2045年ごろ、人工知能(AI)が人間の脳の働きを超える“シンギュラリティ”がやって来ると言われています。AIにはすでに「X線の画像から病気を発見する」「自動運転」「工場の生産工程で不良品を見つける」といった仕事を任せたときの知的能力や自律的な学習能力に、大きな注目が集まっています。この記事では、AIのシンギュラリティと、さらにその先には何があるのか展望します。

人間を超える?AIの世界

人工知能(AI)が「優れた知的能力を持って人間を支配する」といった、SF映画のようなイメージになるかは別として、これからの時代はAIの動向を見据えることが避けられないでしょう。

今後、数10年間にわたりビジネスにかかわる20代の人たちにとって、自分の仕事とAIの発達は密接な関係があると見込まれるからです。

AIにおけるシンギュラリティとは?

シンギュラリティは「技術的特異点」という意味です。

AIのシンギュラリティとは、AI進化が無限大に発散される点を指します。つまり、AIが自律的に進化し続けることで自らの知能を高め、人間に代わって知的な活動を行いはじめ、これまでとはまったく異なる世界が登場する――そのような時点をシンギュラリティと呼んでいます。

人工知能研究の第一人者レイ・カーツワイル博士が、その著書『ポスト・ヒューマン誕生-コンピュータが人類の知性を超えるとき』(原題『The Singularity Is Near : When Humans Transcend Biology』、2005年刊)でこの考え方を提唱し、2045年ころまでにシンギュラリティに到達することを予測しました。

AIの歴史と現在、これから

AIという言葉そのものは、すでに1950年代から使われてきました。単純な作業をくり返すだけではなく、自ら考えるように動作するのを特徴とするコンピュータ技術です。

こうしたAIが、みずから判断基準やルールを見つけ出しながら自律的に課題解決を行えるように大きく進歩したのは、深層学習(ディープラーニング)という技術が導入された2010年代からです。

象徴的な出来事は、グーグルの関連会社が開発した囲碁用のAI「アルファGo」が次々と最強のプロ棋士に勝利したことでしょう。2017年にデビューした「アルファGoゼロ」は人間が手本を示さず、囲碁のルールを教えただけで、AI同士が対戦をくり返すという自律的な学習をして強くなっていきました。

これまで多くの企業などで使われてきたのは、人間が与えたプログラムを忠実に実行していくコンピュータです。囲碁でプロ棋士を破ったとしても、それはメモリ領域に記録されたプログラムを実行した結果に過ぎません。

一方でシンギュラリティへ到達するためには、人間と同様に“思考するAI”の登場を前提にします。

これは、人間の脳の仕組みをモデルに開発された「ニューロコンピュータ」で、2030年代には人間が持つ脳の神経細胞のネットワークをコピーできると予測されています。現在使われているコンピュータとは前提とする仕組みが本質的に異なるのです。

ニューロコンピュータは2030年代に、人間に近い知性を持ったAIを実現し、2045年には人間と同様に思考し、人間の知性を超えるシンギュラリティが起きるというシナリオです。もしかすると、カーツワイル博士の予測よりも早くシンギュラリティに到達するかもしれませんね。

シンギュラリティに到達したらどうなる?

現在私たちの住む世界には、海、川、大地などの「自然」のほかに、建築技術や機械によって効率化された「人工の都市」、さらに物理的には存在しないが仮想的につくった「バーチャル」とも呼べる世界の3つがあると考えてみましょう。

このうち、シンギュラリティによって、バーチャル世界の割合が増大するのではないかと考えられているのです。

新しい世界観は新たなニーズを生み出し、既存の概念にとらわれている企業は衰退し、新たなビジネスモデルが生まれ、発展していくことが予測されるでしょう。