そんなパールのグラグラした精神状態をミア・ゴスが狂気的に演じているが、そのなかには狂気だけではなく、純粋さや優しさがあるのも事実。そして不安や悲しみといった人間の弱い部分もあったりと、繊細なシリアルキラーを見事に演じているといえるだろう。
『X エックス』の場合は、舞台となっている70年代の『悪魔のいけにえ』や『サランドラ』といった、ジャンルホラーへのオマージュを散りばめた、ホラー好き必見のギミック満載作品としての魅力はあった。一方、主人公マキシーンや殺人老婆パールのバックボーンに関しては、ざっくりとしか触れられていなかった。
ちなみに今作もジャンルは違っていても、映画というカルチャーに対しての愛は忘れてはいない。古典的なミュージカル作品やジョージ・キューカー、マックス・オフュルス監督が手掛けてきたような⼥性主体のメロドラマへのオマージュも含まれている。
ただ、そんななかでもパールが夢や野心に満ち溢れた若い映画クルーたち(=マキシーン)を見たことで、自分の老いと改めて向き合い、戻ることができない若さ、そして時代が違っていたら自分もそうだったのに……というもどかしさなどの複雑な感情が交じり合った視線というのは、明確に表現されていた。
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