常に今までにない笑いを追求し、それを出来るだけわかりやすく見せる事でも知られている惹女香花の渾身のボケは会場のお客さんの笑い声によって台風のように起こっており、吹き飛ばされそうになった。そのボケの見せ方や言葉選びの絶妙さ、お客さんも全員がそのボケに反応して笑ったというのがこのライブの成功に導いた全てなのかと思った。

 惹女香花はいろいろなボケや演出の新しさを見せてくれたがゆえにハマらない箇所も数か所あり、それなりの笑いしか起こらない。要するにちゃんと面白くなければお客さんは笑わない。だからこそ良いボケのようで良いボケではないボケの笑いの量で如実に空気が変わっていくこの空間が好きだった。学生や社会人は副業でお笑いもやっていると言ってもそのネタ表現の探求心が物凄い勉強になるレベルで見せてくれる。そのワクワクを現場の笑いで納得した瞬間に立ち会えた審査員としての私は、お客さんの笑い声を十分評価の目安にして大丈夫だなという安心感があった。

 時折、出演者が友達を呼びすぎてそこまでのネタがウケ過ぎてしまったり身内ネタが共通の笑いになってしまったりする場合は、そこを審査員はお客さんの笑いを一切気にせず得点をつけなければならない事もある。準優勝のナユタが気持ち良いほどウケていたボケは1つ1つ緻密でよく作りこまれており自分でも本当に面白いボケだなと思える言葉選びと構成だったので、お客さんの笑いの量のまんまの評価をさせていただいた。

 この空間が非常に心地良く、MCだったモグライダーの盛り上げも良かったというのもあるだろうが現場にいて良かったと思った。優勝はどくさいスイッチ企画、というピンだったのだが、クイズネタでここまで1人で表現できて、見やすくかつテンポよく笑わせるという神ネタを披露してくれた。このお客さんなら感度が非常に良くこれからの笑いも作っていけそうだなと思わせてくれる。上質なお笑いライブだった。ライブ後にフランスピアノのなかがわりょうと話した時に「どくさいスイッチ企画はR-1グランプリでうけていたネタをやらずに優勝したんですよ」というネタへの探求心と向上心がプロだったことへの凄さも知った。因みにR-1グランプリ2023でどくさいスイッチ企画は準々決勝まで進んでいる。