◆現代アメリカの抱える闇を描きつつ愛そのものを肯定

なぜウィリアムは服役していたのか。魚眼カメラのような独特のカメラワークで表現される主人公の心の傷となった過去の回想シーンから描き出されるのは現代アメリカの抱える闇。

退役軍人たちの心のケアや社会復帰の問題を、宗教的な比喩などを用いて淡々と、静かに、アイロニカルに伝えてくるからこそ、より強く戦争というものの愚かさとやるせなさを感じた。

ここまでの人生で犯した罪を前に、己を罰し続けながら生きてきた内省的な男が、降って湧いた贖罪(しょくざい)の機会を前に葛藤しながらも決断を下すストーリーは、まさにポール・シュレイダーらしいもの。

衝撃的な展開は安易なハッピーエンドを提示してはくれないが、だからこそラストシーンには人が人と共に生きること、愛そのものを肯定する姿勢を感じた。

『カード・カウンター』

製作総指揮/マーティン・スコセッシ 監督・脚本/ポール・シュレイダー 出演/オスカー・アイザック ウィレム・デフォー 配給/トランスフォーマー ©2021 Focus Features. A Comcast Company.

<文/宇垣美里>

【宇垣美里】

’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。