大友克洋が産み落とした『AKIRA』は、日本の漫画・アニメ史上にさんぜんと輝く傑作です。渋谷パルコリニューアルオープンでの展示で耳にした人もいるかも?とはいえ漫画の連載がスタートしたのが1982年、映画の公開が1988年なので、1990年代以降に生まれた人にとってはあまりなじみのない作品かもしれません。そこで本記事では、若い世代に向けて『AKIRA』がいかに革新的かつ現代でもアクチュアルな作品なのかについて解説します。
そもそも『AKIRA』って?
『AKIRA』は1982年12月から『週刊ヤングマガジン』誌上で連載がスタートしました。作者の大友克洋は当時、気鋭の漫画家として名前が知られていました。大友克洋の作品の特徴は、手塚治虫的なデフォルメされた「漫画の絵」から離れた写実的な描写の数々です。建物やメカはこの上なく斬新かつ緻密に描かれています。
人物に関してもいわゆる美少年や美少女ではない、ある意味で「ブサイク」であることさえ良しとする新たなリアリズムを日本の漫画表現に導入しました。
初作品集の『ショート・ピース』(1979年)が話題を呼び、さらに『気分はもう戦争』(1982年・矢作俊彦原案)などの傑作を20代で世に送り出していた大友。その圧倒的な存在感から多くのファンを生み出しつつあった作家が、戦争やオリンピックなど昭和の象徴とされる時代を再び語り直すように「未来の東京」として構築したSF大作が『AKIRA』でした。物語の舞台は2019年の東京です。第三次世界大戦後、東京湾に築かれた「ネオ東京」が繁栄を極めていました。
崩壊した旧市街(かつての東京)も、2020年のオリンピック開催を機に再開発が進められようとしています。もちろん作品が描かれた1982年の時点で、2020年の東京オリンピック開催など話題になっているわけがありません。「東京オリンピック開催迄あと147日」という看板に「中止だ中止」「紛砕」と落書きされた映画『AKIRA』の有名なカットは、今にして思うとあまりにも現実とリンクしており、恐怖を覚えるくらいです。
暴走族を率いる主人公の金田と彼の幼なじみで超能力に目覚めて暴走していく気弱な少年・鉄雄を中心に、謎に包まれた「アキラ」をめぐっての政府や軍、反政府組織を巻き込んだ一大スペクタクルが展開されていきます。ここまでの作者紹介とあらすじを見て興味をひかれた人は、ぜひ漫画版や映画を手にとってみてください。
映画『AKIRA』の衝撃
『AKIRA』といえば、1988年に公開されたアニメーション映画版をイメージする人が多いのではないでしょうか。映画版『AKIRA』は大友克洋自身が監督となり、並行して連載中(1990年に完結)だった漫画とは異なる結末を迎えている点も見どころの一つです。総製作費は、当時の日本のアニメ映画としては破格の10億円でした。
「予算」「時間」「最高のアニメーション技術」を惜しげもなく注ぎ込んだ同作は、SF映画の金字塔として歴史に刻まれています。金田のバイクがスライドするシーンに代表されるケレン味たっぷりのアクションやネオ東京の摩天楼をはじめとした印象的なモチーフの数々は、後進の名だたるクリエイターたちに影響を与えました。
この魅力的な映画作品『AKIRA』ですが2020年4月24日には4Kリマスターセットが発売されました。オカルティックなカタストロフ妄想のような題材でありながら、同作がこれほどまでにたくさんの人の心をつかんで離さないのはなぜでしょうか。少年たちの鬱屈や成長、反権力への意志といった普遍的なテーマを、124分という尺の中に凝縮していたからかもしれません。
もちろん全6巻で1990年に完結した漫画『AKIRA』も映画版に負けず劣らずの傑作です。都市が破壊されるシーンなどで発揮される大友克洋の異様なレベルでの緻密な描写は、ある意味、デジタル時代を先取りしたオーパーツ的なスキルだといえるでしょう。大友克洋の登場は、記号的な絵を積み重ねて物語を表現していた日本の漫画における表現方法そのものを揺さぶりました。
『AKIRA』の大ヒットは、日本の漫画界に「大友以前・大友以後」という言葉を生み出すほどの影響を与えています。