ビルボードでの功績を皮切りに現在も世界の音楽シーンで歴史的快挙を成し遂げている韓国の7人組K-POPボーイズグループ・BTS(防弾少年団)。

BTSはなぜ世界を魅了するのか?その世界的人気をマーケティング視点を軸に3回にわたり大特集!

  1. BTSが作り出す世界“正典(canon)”
  2. BTSを世界で一番理解し愛するファンダム“ARMY”
  3. アンダードックから這い上がったBTSのパフォーマンス力

「なぜBTSは世界を熱狂させるのか」を徹底的に大解説する第二弾をお届けします。

4、世界的人気をBTSを最も理解し愛するファンダム“ARMY”から読み解く

BTS人気の理由①“自分たちが推しを1位にする“K-POPファンの独特な価値観

エンタメ大国韓国ではケーブル放送や地上波まで毎日音楽番組が放送されています。

そしてK-POPでは番組の権威性など多少のランクはあるものの、各音楽番組で1位を取ることがとても重要で、新曲を出したらまずはここで1位を目指すことから始まります。

アイドル達にとって、音楽番組で1位を取ることはいわば悲願。韓国の音楽番組では、1位を手にしたアイドルが泣き崩れる姿が至るところで見られます。これは日本の音楽番組ではまず目にすることはない光景でしょう。

結果を最重視する韓国では、アーティストとしてのプライドだけでなく1位になった事実が重要。それがこの先アイドルとしてステージに立てるかどうか非常に大事なターニングポイントにもなります。よって1位に対してとても切実なのです。

詳しくは後述していきますが、K-POPファンにはその1位を「自分たちが取らせる」という文化があります。

BTS人気の理由⑩スミン

各音楽番組は独自のランキングシステムがあり、音源の再生回数、CDの売上、SNSスコア、投票スコア、専門家投票など各採点の項目や配分が番組によって異なります。

その中でどの番組でも重要度が高いのが「音源スコア」で、大概が曲のダウンロードやストリーミング回数などの評価を指します。

ファン達はこの点数を稼ぐために、

BTS人気の理由②BTSのすべてが人々を虜にする作品になっている

BTSの作品は、楽曲やパフォーマンスに限りません。

YouTube、VLIVE、SNSなど様々なプラットフォームを基盤に、BTSが関わるMV(ミュージックビデオ)、ティザー動画、衣装、CDジャケット、ストーリーブック、ウェブトーン漫画などのあらゆる発信物、そしてVLIVEなどで発信される本人たちの日常の姿、本人たちの実際の人生までも、そのすべてを作品としてファンたちは楽しんでいます。 そしてそこには、BTSが大切にしているメッセージを含むストーリーの断片が存在しており、それを繋ぎ合わせていくと一つの世界が構築されるしくみになっています。

※公式YouTubeやVLIVEで配信される彼らの日常や撮影ビハインド動画はナチュラルなBTSの姿が垣間見え、ファンに人気。こうした実際の姿も“正典”を作るひとつのかけらとして存在している。

BTS人気の理由③BTS最大の功績トランスメディア・ストーリーテリング

『PRIME』より引用
(画像=『PRIME』より引用)

整合性ある複数の物語を複数のメディアで展開することで次第に物語の全貌を明らかにしていく手法を、マーケティング用語で「トランスメディア・ストーリーテリング」と言います。あえてストーリーを断片化し顧客に魅力ある物語体験を提供すると、受け手は好奇心をくすぐられ虜にされます。

しかもその物語に共感があるほど、発信側と受け手には深い繋がりが生まれるのです。

BTSはもともと持つ素晴らしいパフォーマンス力に、このプロモーションを最大限活かせるトランスメディア・ストーリーテリングをつけたことが最大の功績と言われています。

このプロモーションビデオは、2018年にビルボード・ミュージック・アワードでもステージを披露した「FAKE LOVE」のティザー動画。物語の断片となるようなシーンがたくさんあるのがおわかりでしょうか。

何も知らず見ても、この中にはたくさんの伏線がありそうだと感じると思いますが、こうした物語の断片が彼らが発信するすべてに散りばめられています。

BTS人気の理由④壮大すぎる謎解きとBTSの世界観

③で紹介したような手法を用いたBTSのトランスメディア・ストーリーテリングは、BTS以外でも広報やプロモーションでたくさん使われています。

例えば、映画『鬼滅の刃』の売り出し方や、コカ・コーラ社がブランドPRのために取り入れた手法です。

コカ・コーラ社は、自動販売機の中に“ハピネス”を提供するキャラ達がいて、その子たちのショートムービーをCMとやブログなどの色んなメディアで展開。そこにユーザーに響く物語を用意し、コカコーラ社が売ってるものは単に炭酸飲料水ではなく、「ハッピーな気持ちを感じられるひととき」というPRを作品に詰めてブランド認知を高めました。

BTSが使う手法もコカ・コーラ社と同じです。しかし、彼らの発信するトランスメディア・ストーリーテリングは作り込みが半端ない!

各作品に散りばめられたストーリーの断片を回収しながら世界観を完璧に理解するのはたいていの人は無理だと言われるほどです。

その理由は、

  • MV(ミュージックビデオ)は全てつながっており、そこには謎めいたストーリーを紐解くカギが散りばめられている
  • ある曲のMVは日本版では同じ出来事を別の角度から描いたような視点で観ることができる
  • ある曲ではガラリと違う世界観を見せながらも7人の行動や役割は過去のMVでの動きと関連している
  • 各MVのそのカギを理解するには、ヘルマン・ヘッセなどの文学の知識、ギリシャ神話の知識、ユングの心理学、SF小説や映画などの知識が必要になる

これだけでも、MVがリリースされるたびファンの間では考察や解釈が飛び交い、常に話題になるのは必然。

その壮大な仕掛けや、哲学的な歌詞や深いミュージックビデオに魅了され、ARMYの中にはアイドルファンのみならず大学教授やビジネス層の知識層も多くいるそうです。

※LOVE YOURSELF Highlight Reel ‘起承轉結’と名付けられたBTSのメンバーが出演しているショートムービー。この13分のストーリーにも、他のBTSから生まれるすべてのコンテンツとのつながりから読み解ける何かがある。一度探し始めたらそこにはもう底なしの謎解きが待っている。

BTS人気の理由⑤ARMYが彩り補完する作品の数々

『PRIME』より引用
(画像=『PRIME』より引用)

BTSのトランスメディア・ストーリーテリングは、MVなどの映像作品以外にもたくさん散りばめられています。

急に過去のストーリーを連想させる仕掛けを投稿してきたり、そのヒントがSNSの更新の日付にあったり。また、突然架空の花屋のブログやInstagramがアップされ、メンバージンがそれを連想させるような花束を抱えたセルカをアップしたり…一見断絶された一つ一つもストーリーを理解するカギになっているのです。

また、それらはアイドルとして成長する7人の精神ともリンクする部分があるなど、とても巧妙に作りこまれています。

ここまでくると、謎解きゲームであり頭脳戦。そして、各SNSやWEB上には、そのストーリーや伏線の謎に迫り細かく解説しているファン達がたくさんいます。彼・彼女たちが発信するその内容は、1つのアルバムの考察だけでも、小説のような目次が出来上がってしまうほど興味深いものばかり。さらにそれは時に謎解きのレベルを超え、ファンが独自のストーリーを展開することも。そしてそのすべてがBTSの物語と世界を構築する正典となっているのです。

スリリングな作品との対峙の先にあるものは、いずれもBTSからの様々なメッセージ。そこに気づいた時には、消化しきれない気持ちとBTSへの溢れる思いでいっぱいになってしまうのです。