配信を見た直哉が優斗のもとを訪れると、優斗の目からはいつも輝いていた希望の光は消えていた。直哉は発破をかけるつもりか、「わかったか? 俺の言ってたことが。それでも声を上げる?」と煽るが、優斗は力なく「……わかったよ。萱島さんの言うとおり。最低だな、ここは。もう……終わればいい。こんな世界、もう終わればいい」と言い放つ。直哉は「そうだよな。クソだよな……」と笑った後、震える右手で優斗の肩をつかみながら「でもお前が言うな。お前が言うなよ」と語りかけるのだった。
第9話は、戻りたかったはずの世界から爪弾きにされてしまう乗客たちが描かれる辛い展開になった。消えた電車と乗客が3年後に突然戻ってきた不思議のほうがもっと騒がれていいはずで、興味本位でネット上に素性を晒す容赦なさや、動画投稿で炎上するシーンはやや過剰な演出にも感じられたが、主演の山田が制作記者会見で「SNS社会になって、印象だけで、イメージだけでその人を判断せずに、心でコミュニケーションを取って。そんな人が増えていく世の中になったらいい」「僕にとって(『ペンディングトレイン』は)そんな祈りのような作品」というメッセージを発信していたことを思い出す。ドラマプロデューサーの宮﨑真佐子氏も、インタビューでたびたび電車の中が「社会の縮図」であるという話とともに、車内の誰もが動画やSNSなどスマホの小さな画面ばかりを見ている状況への気づきを、このドラマが生まれるきっかけとして挙げている。このドラマにとって、SNS社会というのは重要な要素なのだろう。劇中には、「みんな、次々新しいものを求める。そして無責任に作り上げる。自分たちに都合のいい事実を。それを褒めて叩いて、一体感を味わう」という加藤祥大(井之脇海)のセリフがあったが、現代社会の問題を端的に指摘していた。
直哉にとって「ヒーロー」であったはずの優斗の心が折れてしまうという展開で終わった第9話。絶望的な状況に思われるが、加藤が物理学教授の蓮見涼平(間宮祥太朗)に渡した隕石や植物の解析が進めば、5号車の乗客の証言への理解は進むだろう。田中弥一(杉本哲太)の娘・美帆(金澤美穂)は、田中がひとり2060年に残ったことを伝えにきた米澤大地(藤原丈一郎)の言葉を信じ、「父が託したこと、忘れないでください」とエールを送る。味方はゼロではない。