◆野球選手役で脱力する演技

 野球のことは、あまり詳しくないけれど、プロとノンプロの違いくらいはわかる。文字通り、プロ野球選手か、そうでないのか、単にその違いである。

 芸能界にも通じるプロ野球界は、確かに華々しいが、でもノンプロの世界にもこんなに素晴らしいドラマがあるのだ。球団スカウトの奮闘を描く『ドラフトキング』第3~4話では、あるノンプロ選手にスポットライトをあてている。

 選手の名前は阿比留一成。町田啓太が演じる。打席で球を打ち、きりりとした眼差しで空のほうを見あげる。

 ホームベースめがけて、速球を投げる一瞬の表情も力強い。かと言って、演技に力が入り過ぎないのがいい。才能ある野球選手役を町田が演じると、こうも脱力するものか。

◆町田啓太史上最大の“名演”

 そう、本作の町田は、徹底して脱力している。決して演技が間延びし、見ているこちらが拍子抜けするわけではない。むしろ、これは、町田啓太史上最大の“名演”だとさえ筆者は考えている。

 阿比留は、いっときプロの世界を目指したが、ドラフト指名順位でもめ、プロ入りを諦めた(ということになっている)。

 それで現在は社会人野球の強豪である万田自動車の中心選手として活躍。事情を知らない新人スカウトの神木良輔(宮沢氷魚)はそんな阿比留の才能を高く買い、改めてスカウトするために足繁く通う。

 練習終わり、ベンチに座る阿比留と神木が会話する場面がある。神木の質問に対して阿比留は、「なんですか?」と気の抜けた疑問形を浮かべるのだが、この脱力した口調と表情が、驚くほどしっくりくる。

 一見、ヒットにも見えない演技が、よくよく味わうと、熱のこもった特大ホームラン級の名演だと感じる。