万太郎(神木隆之介)が「こんなにかわいい花じゃけんど、おまんのトゲは痛いのう」と地面に這いつくばるようにして愛でる、可憐なノアザミ。愛らしい花の様子とは裏腹に、摘み取ろうとする指を刺す鋭いトゲを持ち、空を見上げて力強く咲く。そんなノアザミは、寿恵子(浜辺美波)によく似ている気がします。一見かわいらしいのに、厳しいダンスの練習から逃げ出さない強さを合わせ持つところが。そういえばダンスのためにあつらえたドレスも、ノアザミの色をぐっと濃くしたようなピンク。
そんな寿恵子の母・マツ(牧瀬里穂)もまた、ノアザミのようですね。恵まれた暮らしを与えられたけれど、なかなか訪ねてこない男を待つ妾の立場はつらいもの。それでも男を待つばかりではなく、楽しみを見つけ、凛として生きている。そんな母を見てきた寿恵子は同じように、高藤(伊礼彼方)の妾として横浜の屋敷で暮らす道を選ぶんでしょうか、「男の人のために、あんたがいるんじゃないの。あんたはあんた自身のために、ここにいるの。だから、いつだって自分の機嫌は自分でとること」と母に教えられた「奥の手」を唱えながら。でもね、いい言葉として使われる「自分の機嫌は~」、主旨はたいへんよくわかるんですが、心やさしい人ほど、誰かを責めずに「自分の機嫌は自分で」と我慢しがちじゃないですか? 私個人としては、自分の機嫌は自分でとりつつも、機嫌を損ねるような行為に関しては、きっちり抗議してほしいなあと思ったりしてます。寿恵子本人に何の説明もなく訪ねてこなくなった万太郎に「自分のことだけ考えてるのずるくないですか? 待つ人の気持ちを考えられないんですか? ばかなんですか?」って言い放って欲しい、おいしい水ようかんを頬張りながら。楽しむことと正当に怒ることは、両立すると思うんですよねー。