ズレ漫才誕生とその覚悟

 いまだもがき苦しむオードリー・若林は、とある放送作家から「あんなにツッコミが下手なやつ(春日)みたことない」のアドバイスを受ける。自分たちのトークライブの映像を見返し、春日(戸塚純貴)のズレたツッコミが数十回にも及んでいたことに気づく。そのズレたツッコミに若林がツッコミ直す形を見出し、オードリーのブレークのきっかけとなった“ズレ漫才”を思いつく。これまでに時事漫才、客いじり、アメフトモノマネなど、様々なパターンを試してきた若林は、「今回こそは!」とズレ漫才に賭ける決意を固めた。

 売れないんだからいろんなことに挑戦する。当たり前のことに聞こえるかもしれないが、オードリーの方向転換はかなり思い切った決断だと思う。ドラマ内では全く活躍が描かれていないオードリーだが、芸歴を数年重ねればライブシーンではそれなりに名前は知れ渡るし、どういうコンビなのかもそれなりに浸透する(あくまでライブシーンでは)。

 その中で、つい昨日まで普通の人だった春日がピンクのベストで胸を張ってゆっくり歩く。ここまでのキャラチェンジをしてしまえば、いつものお客さんからすれば戸惑いでしかないし、例え面白かったとしてもちゃんとウケるかどうかはだいぶ怪しい。モミアゲまで剃ってしまっているので、元にだって戻りづらい。

 そんな状態で臨んだ『M-1グランプリ2006』は、素人に毛が生えた程度の二回戦敗退。若林は自分を面白いと言ってくれる彼女(?)の智子(中田青渚)相手に、「俺は面白くないんだよ」と自分を否定する。智子は春日同様に自分の可能性を信じてくれる数少ない人間だ。本当にありがたい存在なのだが、その信頼を裏切るのが怖いし情けない。だから「あなたはそんなに面白くない」と引導を渡してもらいたかったのかもしれない。