でも、万太郎が東大で田邊教授に出会えたのは、彼が植物への「好き」を諦めなかったからなんですよね。自由に「好き」でいたい気持ちが、高知での中濱万次郎=ジョン・マン(宇崎竜童)との出会いを呼び、東京へ向かわせ、中濱万次郎を知る田邊教授につながり、ふたりは共鳴することになる。「好き」は誰かの「好き」と繋がっていく。諦めずに好きでい続けることこそが、彼の才能なんだけど、そして植物好きでいることは時に彼を苦しめてもきたんだけど、万太郎を妬んでいる人たちにはそこまでは見えない。だから、東大に出入りを許されたと万太郎から聞かされてもダークサイドに落ちなかった長屋の丈之助(山脇辰哉)、本当にえらいなあと思いました。自分は東大を落第していて親からの援助を切られている、それなのに万太郎は、という苦い気持ちを双子の卵とともに飲み込んで、「がんばれ」とエールを送ったシーン、よかったですね。この時味わった苦さは絶対、いつか彼が作る何かに繋がると思う。

 それにしても、東京編になって次々と新しい登場人物が出てくるのに、普通に会話している様子だけで「あ、この人はこういう立場で、こんな性格なのね」とすっと頭に入る物語になってるの、すごくないですか? 東大の学生や教授たちのこと、もうだいたい知ってる気がする。菓子店の白梅堂でも、寿恵子ちゃん(浜辺美波)は彦根藩の武士だったお父さんに可愛がられて育った、『八犬伝』に萌えて登場人物と一体化したい系オタクな女の子、お母さんのまつさん(牧瀬里穂)は元柳橋の芸者、叔母のみえさん(宮澤エマ)は新橋の料理屋のおかみさん、文太さん(池内万作)は甘いもののあとにおかきを出すような気が利く職人などなど、お茶時のおしゃべりを聞いたくらいで彼らの現在の状況がわかる。気持ちのいい名人芸を見ているかのような作劇、すばらしい。

 ドラマが本格的に東京編になるのといっしょに、とうとう万太郎もオープニングで空を飛んでいる時と同じく、洋装にチェンジ。新しい仕事に着くことになった竹雄(志尊淳)も洋装になりそうでわくわく。みえさんが持ち込んだdanceの話に惹かれているらしい寿恵子ちゃんも含めて、これから「見たことのない世界」へ飛び込んでいく3人、たのしみです。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『らんまん
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス

出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子、寺脇康文、広末涼子、松坂慶子、牧瀬里穂、宮澤エマ、池内万作、大東駿介、成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純、中村蒼、田辺誠一、いとうせいこうほか
作:長田育恵
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん「愛の花」
語り:宮﨑あおい
制作統括:松川博敬
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
植物監修:田中伸幸
制作:NHK
公式サイト:nhk.jp/ranman