PARCO劇場開場50周年記念シリーズとして、藤田俊太郎演出、宮澤エマが舞台初主演する『ラビット・ホール』が東京・渋谷のPARCO劇場にて4月9日に開幕。初日前には、藤田、宮澤のほか、共演の成河、土井ケイト、阿部顕嵐、山﨑光、シルビア・グラブが会見に出席し思いを語った。

『ラビット・ホール』初日前会見より、前列左から)藤田俊太郎、宮澤エマ、成河 後列左から)山﨑光、土井ケイト、シルビア・グラブ、阿部顕嵐

本作は2007年に米ピューリッツァー賞を受賞したデヴィッド・リンゼイ=アベアーによる戯曲。2010年にはニコール・キッドマンの製作・主演により映画化もされ、数々の映画賞に輝いた。交通事故で幼い息子を亡くした夫婦を中心に、傷ついた心が再生に至る道筋を、家族間の日常的な会話を通して繊細に描いた傑作として知られ日本でも上演が重ねられている人気作だ。

演出を手がける藤田は、『ザ・ビューティフル・ゲーム』『ジャージー・ボーイズ』『天保十二年のシェイクスピア』などで数々の演出家賞を受賞し、今回東京公演の会場となるPARCO劇場とは、2017年からレパートリー公演である朗読劇『ラヴ・レターズ』の演出も手がけている。

開幕にあたり、「素晴らしいキャストのみなさん、そして素晴らしいプランナー、スタッフ、カンパニーの皆さんと丁寧に作品をつくってきました。あとは素晴らしいお客様を劇場に迎えるだけです。この愛おしくて愛すべきこのカンパニーで世界ツアーをやりたい、と思えるくらい誇らしい作品をつくることができました」とコメント。本作を取り上げたのは戯曲にほれ込んだのが始まりだったというが、「(稽古を経て)このカンパニーで、演劇の美しさをありとあらゆる形でディスカッションできたことが、本当にこの作品を私たちがつくった意味なんじゃないかなと思っております」とカンパニーへの信頼を熱く語った。

主役のベッカを務める宮澤も「初共演の方もいるのに、初めてなのかな、前世でも一緒だったのかなというくらい最初から皆で仲良くやれているカンパニー。それぞれのスキルと技術をもって今日までやってきたので誇りでしかない。皆さまにお届けできることにワクワクしかないです」と語り、稽古中のエピソードを聞かれると「毎日のように笑い転げていたよね?」と共演者らと顔を見合わせ、その言葉通り信頼関係が築かれていることをうかがわせた。

宮澤は2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも熱い注目を集め、舞台ではミュージカルを中心に数多くの作品に出演しているが、主演舞台は今回が初。座長としてのプレッシャーは「もちろん感じている」と言うが、「いろんな化学反応によってどんどん前に進んでいく作品なので、“座長”として私がやったことはない。この作品をどうやってお客さまにお届けできるのかということを皆でディスカッションし合いながら、支え合いアドバイスを与え合う、そういう稽古期間だった」と振り返った。

宮澤が演じる、喪失感から抜け出せず前に進めない妻とは反対に、前に進もうとする夫・ハウイーを演じる成河は、観客になるべく身近に感じてもらえるようなリアルな「しゃべり言葉」の追求にカンパニー全体で「大学のサークルの研究会かというくらい」熱心に取り組んだと明かした。「『しゃべり言葉』から離れれば離れるほど様式性の方向に行ってしまい、ヨーロッパやアメリカで今主流になっている(写実性の強い)会話劇から離れてしまってお客様からは身近に感じられなくなってしまう」と苦労を語り、「派手さだけではない日常的な身近な会話劇というものが、本当に人生の支えになったり、辛い時に寄り添ってくれるものなんだというのを知ってもらいたい」と思いを込めた。

ベッカの妹・イジー役の土井ケイトも「本稽古が始まる前から皆で集まって会議のように言葉をイチから見直していった」と「しゃべり言葉」を追求し続けた稽古の様子を明かし、「ここまで言葉にこだわった分、ものすごく“生”な舞台になってきている。言葉にはもう逃げられない、本当にその場になって感じないと言えない身体になってしまっている。そういう舞台というのは実はすごく稀有で、本当にこの出会い、このカンパニーだからこそ成し得たこと。これは本当に奇跡のカンパニー。それがお客さんにどうみえるのか、すごく実験的で新しい挑戦なので一緒に感じていただいて千秋楽に向かって進んでいきたい」と熱弁。