今年は時代小説の名手、池波正太郎の生誕100年。それを記念した企画が目白押し。その中心になっているのが映画『仕掛人・藤枝梅安』だ。2月の第一作に続き、早くも第二作『仕掛人・藤枝梅安2』が4月7日(金) に公開される。豊川悦司の藤枝梅安、片岡愛之助の彦次郎はもちろん同じ。監督は2作とも、トレンディドラマのディレクターで最近は時代劇も多く手がける河毛俊作だ。「前作がフランス映画なら本作はアメリカ映画のテイスト」という。アクションシーンも増え、ロードムービーの作り。久しぶりの本格時代活劇、これぞおとなのエンタテインメントだ。
『仕掛人・藤枝梅安2』
江戸時代の、金で人殺しを請け負う“殺し屋”を、“仕掛人”と名付けたのは池波正太郎。それまで時代劇といえば、ヒーローはお侍かヤクザ、刀を使ったチャンバラアクションが当たり前だったけれど、池波は、職業が鍼医者、殺しの武器は「はり」、そんな斬新な趣向をもちこんだ。金が目的の殺人だが、殺していいのは世の中のためにならない本当の悪……と、自分なりのルールはある。“仕掛け”たら外さない。人知れず葬り去るプロ仕事。江戸の裏稼業を描く、藤田まことや東山紀之の“必殺シリーズ”の原点だ。
そんな、底知れぬ闇を背負ったダークヒーロー・藤枝梅安に扮するのは豊川悦司。これまで映画やテレビで演じた緒形拳、萬屋錦之介、小林桂樹、田宮二郎、渡辺謙などの歴代のスターと比べても、原作では「六尺に近い大きな体」と書かれているから、超高身長の豊川はピタリとくる。最も薄情そうだし、ワルっぽい。何よりも、若かりしころからにじみ出ていた渋味と艶っぽさが、今回ダダ洩れしている。
梅安が、そんな稼業に身を置くにはそれなりのわけがある。殺しで仕留めた相手が実は幼い頃に生き別れた妹だったというのが前作。本作はその続編ではなく、独立したストーリーではあるものの、梅安が仕掛人になったいきさつが語られる。さらに、同じ仕掛人の相棒、表の顔はようじ職人の彦次郎の過去が入り交じり、あらたな事件が起こっていくのだ。よりバディ・ムービーの要素が強い内容になっている。
京都で、梅安は自分を拾って育ててくれた恩人の鍼医者・津山悦堂の墓参りをするつもり。その道中、ふたりは、彦次郎の妻と子を死に追いやった仇に出くわしてしまう。彦次郎は「あの野郎、生かしちゃおけねえ」とうめきを発した。しかし、京に入り、梅安が墓参りに行くと、なんと、件の侍も同じ師・悦堂の墓を参っていたのだ。さて? これはどうしたことか……。偶然の出会いから事件が事件をよんでいく。
池波正太郎の小説「仕掛人・藤枝梅安シリーズ」は、短編・長編合わせて全20作が遺されている。この映画の第一作は、第一巻『殺しの四人』に収められた短編『おんなごろし』が、第二作は同じく第一巻の『殺しの四人』と『秋風二人旅』が原作となっている。第一巻から順に取り上げているということは、このあと、TVシリーズにするのか、映画でシリーズにするのか。ファンにとっては興味津々だ。