しかし、遠くの人たちを助けようと空を見上げてばかりいると、すぐ近くの足元が見えなくなってしまうもの。仕事に夢中な舞ちゃんは「舞ちゃん、がんばってね」と微笑む貴司くん(赤楚衛二)の苦しみに気づかないまま、何年も経ってしまった。苦しい毎日の中で息をするために短歌を書いていたのに、いつの間にか人気作家となり、毎月の連載の〆切が設定され、前の作品よりもっといい歌集をと期待される貴司くん。好きな時に好きなように歌を詠んでいたアマチュアと違って、プロにはこういう辛さがある。「これは仕事」と割り切れるならいいけど、貴司くんはそんな人ではない。この時期にハガキをくれた八木のおっちゃん(又吉直樹)だけが、貴司くんのことも歌を詠む苦しみもよくわかっているようで、ホッとしました。
デラシネの暮らしは楽しいけど、自分をその場所に縛り付ける鎖でもある。好きなことでプロになれたらすばらしいけど、期待されるのはやっぱり鎖。そういうのをすべて捨てて旅立った八木のおっちゃんにしか理解できないことがあるのでしょう。しかし、八木さんのいるパリへと向かう貴司くんの姿と2020年というテロップを見て、背中がヒヤリとしましたね。外国で新しい病気が流行ってるらしいとニュースで見ても、それがすぐに日本を含めた世界中に広がり、自由に行き来ができなくなるなんて思ってもいなかった頃。遠く離れた貴司くんのために、他のたくさんの人たちのために、舞ちゃんたちは新しい翼を作り、みんなを繋げることができるのか。
でもそれを描くのに残り一週間って、時間が足りない気がしてちょっと心配です。ここまでの話も「もうちょっと説明があったらよかったのでは」と思うところが、特に後半になって増えていたので。例えば貴司くんにリュー北條(川島潤哉)が持ち込んだ、日本中を巡って短歌教室という話。ほとんど様子がわからないままでしたが、あれをきっかけに貴司くんが旅をしながら歌を詠む喜びを思い出し、ひとりで放浪したい気持ちをそのあとも秘めていた……とかなら、家族を残してパリ行きの話もなるほどなあと思えたんだけどなあ、とか。あの時募集していたデラシネのアルバイトにどんな人が来たのかわからないので、その人にまた頼まないでばんば(高畑淳子)が店番することになる理由についても、もうひと押し欲しかったなあ、とか。今わからないことが最後の週に明かされることもあるかもしれないですが、なんとなく、話のタイミングやバランスがもったいない感じで進んでいることへの、もぞもぞ感を抱えつつ。とにかく最終週、舞ちゃん、舞いあがれー! 柏木さん(目黒蓮)、お帰りなさいー!