『シュレック』シリーズで人気のキャラクター“プス”を主人公にした新たな映画『長ぐつをはいたネコと9つの命』が本日から公開されている。これまで同様、本作でもプスの冒険や戦い、楽しい場面がふんだんに描かれるが、作り手たちは大人の観客も楽しめる、大人の心の“刺さる”ドラマやテーマを作品に盛り込んだようだ。

ネコのプスは、映画のタイトルの通り、長ぐつをはいた勇ましい男だ。ダンディで剣の使いがうまく、いざとなると大きな黒目で人々を魅了する。名優アントニオ・バンデラスの渋くもハイテンションな声がマッチして、彼は一躍人気者に。2011年にはプスが主人公の映画『長ぐつをはいたネコ』が製作され、翌年には日本でも公開された。

その直後から続編に関する報道を目にするようになり、実際にドリームワークス・アニメーションは新たな映画の準備を進めていたようだ。しかし、彼らは前作を超える物語、脚本、アニメーション表現を求めて奔走。11年ぶりに『長ぐつをはいたネコと9つの命』が完成したのだ。

通常のシリーズであれば、11年の空白期間は長い。しかし、プロデューサーのマーク・スウィフトは「このブランクは、メリットの方が大きかった」と語る。

「前作からある程度の時間が空いたことで“リセット”ができたんですよ。ビジュアル面、物語、そこで描かれる感情という意味でもね。さらにこの間にアニメーションを制作する環境やツールも進化しました。現代の観客は“いろんなアニメーションのスタイルを観たい”と思っていますから、本作でルック(画面の見た目)を変えたというのは前作との大きな違いだと思います。

この映画では絵画的な画、まるでおとぎ話のイラストレーションのような画でアニメーションを描いているのですが、最初にアニメーションのチームからそのような提案があった時には本当にワクワクしましたし、本当にこの手法を映画に導入できるのか時間をかけて試すこともできました」

人気ヒーローの“弱さ”を描く。監督&製作者が語る『長ぐつをはいたネコと9つの命』
(画像=『ぴあエンタメ情報』より引用)

スウィフトが語る通り、本作ではアニメーション表現が大きな進化を遂げた。これまでの3DCGを駆使したアニメーションだけでなく、人間が手で描いたタッチの画がそのまま動いているような表現、物理的なカメラでは撮影が難しいショット、デジタルだから描ける光や反射の表現……本作では次から次へと新しい映像表現が飛び出し、プスの新たな物語を綴っていく。

「アーティストであれば誰もが新しい表現を求め、それを実現する方法を模索したいという衝動をもっていると思います」と、本作の監督を務めたジョエル・クロフォードは力説する。

「今回では、様々なスタイルのアニメーションをミックスさせることができました。絵画的な感じで表現したり、手書きのアニメーションのテクニックを使ったり、ステップアニメーション(コマ落とし)を組み合わせたり……チームとしてこの物語を具体的に語る時にどういうツールを使ってできるのか、ひとつひとつ考えながらやったんです」

では、そんな多様な表現を駆使して、どんな物語を描くのか? ここでも“10余年の空白”がプラスにはたらいたようだ。

「ストーリーテリングというものは、時代と共に変化していきます。これは非常に重要です。今回の映画では、これまで以上にプスやキャラクターたちが“感情面での旅”をする物語になりました」

人気ヒーローの“弱さ”を描く。監督&製作者が語る『長ぐつをはいたネコと9つの命』
(画像=『ぴあエンタメ情報』より引用)

プスは長ぐつをはき、帽子姿もキマっているダンディなネコだ。剣の腕も巧みで、歌もうまく、パーティに行けば主役扱い。怖いもの知らずで、どんな強大な敵にも立ち向かう。何せ“A cat has nine lives/ネコは9つの命を持つ”と言われているのだ。

しかし、向こう見ずなプスは命を粗末に扱ってきた結果、9つあった命は“ラストひとつ”に。急に怖くなったプスの前に、彼の剣では歯が立たないほどの賞金稼ぎウルフが出現し、プスは恐怖で震えながら逃走する。

もうあのダンディな“長ぐつをはいたネコ”は存在しない。プスは飼い猫として余生を生きることを選び、ネコ屋敷に紛れ込んだ犬のワンコや他の飼い猫たちと穏やかだが刺激のない日々を過ごす。ところがある日、彼のもとにどんな願い事も叶う“願い星”に関する情報がもたらされる。“願い星”を発見できれば、失った命を取り戻せるかもしれない。プスは奮起し、なぜかついてきたワンコと共に冒険に出かけるが、元恋人のネコ・キティや、3びきのくまと行動する女性ゴルディ、裏社会の大物ジャック・ホーナーも“願い星”を狙っていた。

プスは誰よりも先に“願い星”を見つけることができるのか? 冒険を経て、プスが見つけた本当の“願い”とは?

「プスの命が最後のひとつになってしまうという設定が、現代のおとぎ話として非常に重要だと思ったんです」とクロフォード監督は振り返る。

「パンデミックを経験した私たちは、まるで世界がひっくり返るような経験をしているし、それまでのコミュケーションができなくなってしまった。だから、この作品が描く“命というものは特別なもので、大事にしなければならない。そのことを分かち合える相手を大事にしよう”というメッセージは、結果的に現代の観客に寄り添うものになったと思っています」