大林監督の『青春デンデケデケデケ』で試された手法を取り込んだ『Single8』

「ぴあフィルムフェスティバルと大島渚の時代」連続インタビュー①犬童一心×手塚眞×小中和哉 「映画祭の場で、はじめて自主映画を作っている同世代に出会った」
(画像=『Single8』(C)『Single8』製作委員会、『ぴあエンタメ情報』より引用)

──今、うかがっていた時代を舞台にした小中監督の『Single8』は、どうご覧になりましたか?

手塚 当時のことを思い出して、客観的に見えないところもあるんだけど、気恥ずかしもありつつ、爽やかに観られる映画でした。主演の4人の子たちが新鮮で。小中監督のいろんな映画に対する思いと、自分の過去が重なっているような感じがあって、それが面白かった。

小中 成蹊高校の映研って、脚本をプレゼンして選ばれないと撮れないというハードルがあったんですね。僕の映画作りはそこからスタートしたっていうことを、『Single8』ではクラスの文化祭の話に変えて、違うかたちで描いたんです。

犬童 僕がいちばん面白いと思ったのは、本当は45年も経っているのに、作ってる人は昔のことを撮ってる感じがしなかった。懐古趣味になってない。だけど、1978年の風景とか時間の感じ――ネットもないし、携帯もない時代のティーンエージャーが過ごす時間のスピード感がすごく伝わってきて、そこがすごく良いなと思いましたね。

小中 昔っぽく感じなかったとしたら、キャストに自由に芝居してもらったのが大きいかな。僕の映画はコンテ主義で今までずっと撮ってきたのだけれど、今回は段取りを付けずに1シーンを通して芝居してもらい複数のカメラで様々なアングルから撮ったものを、編集でつなぐというのをやったんです。これは大林さんが『青春デンデケデケデケ』(1992年)で試された手法です。

僕は冒頭の主人公の夢のシーンを任されて別班で撮影したので、本隊の撮影現場を見てました。大林さんの場合はテストなしでいきなり本番を回し始め、カメラマンが役者の動きを予測できずに必死に撮る映像を面白がっていました。カメラ位置を変えて何度も撮るのですが、全てOKカットで、その膨大なフィルムを大林さん自身が半年かけて細かく編集してああいう映画にしたことを、すごいなと思っていたんですよ。そのやり方を自分なりに取り込んでみたいと思って。

「ぴあフィルムフェスティバルと大島渚の時代」連続インタビュー①犬童一心×手塚眞×小中和哉 「映画祭の場で、はじめて自主映画を作っている同世代に出会った」
(画像=『Single8』(C)『Single8』製作委員会、『ぴあエンタメ情報』より引用)

──『青春デンデケデケデケ』は16mmを8mmのような自由さで撮っていましたが、今年、第4回大島渚賞を受賞した『やまぶき』も近年では珍しく16mmで撮影されていました。犬童監督はご覧になっているそうですね?

「ぴあフィルムフェスティバルと大島渚の時代」連続インタビュー①犬童一心×手塚眞×小中和哉 「映画祭の場で、はじめて自主映画を作っている同世代に出会った」
(画像=『やまぶき』(C)2022 FILM UNION MANIWA SURVIVANCE、『ぴあエンタメ情報』より引用)

犬童 すごく地味に見えるけど、今の時代のことを考えながら、積み重ねて撮ってる映画だなと思いました。予定調和的な物語の展開をしないから、そこで引っかかる人はいると思うんだけど、僕はすごく好きな映画でしたね。『やまぶき』を大島渚賞に選んだ黒沢清さんは、この映画の手付き――不器用な手付きで積み重ねていくのを、ちゃんと観たんだなと思いましたね。こういう映画こそ大島渚賞だなと思います。

取材・構成/吉田伊知郎

「第4回大島渚賞」記念上映会の事前申込み(無料)を13日(月)18時まで受付中!

【犬童一心プロフィール】
1960年生まれ、東京都出身。79年『気分を変えて?』がぴあフィルムフェスティバルの前身となる「Off Theater Film Festival'79」に入選。97年に『二人が喋ってる。』で長編映画監督デビューを飾る。『眉山 -びざん-』(07)、『ゼロの焦点』(09)、『のぼうの城』(12)で、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。主な作品に『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、『グーグーだって猫である』(08)、『名付けようのない踊り』(22)、『ハウ』(22)などがある。

【手塚眞プロフィール】
1961年生まれ、東京都出身。79年『UNK』がぴあフィルムフェスティバルの前身となる「Off Theater Film Festival'79」に入選。81年に『HIGH-SCHOOL-TERROR』で「ぴあフィルムフェスティバル」に入選。85年『星くず兄弟の伝説』で商業映画デビュー。主な作品に『妖怪天国』(86)、『白痴』(99)、『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』(05)、『ブラック・キス』(06)、『星くず兄弟の新たな伝説』(18)『ばるぼら』(20)などがある。

【小中和哉プロフィール】
1963年生まれ、東京都出身。兄・小中千昭(現脚本家)と共に小学生の頃から8ミリ映画を作りはじめ、中学2年『CLAWS』(76)で初監督。86年『星空のむこうの国』で商業映画デビュー。97年『ウルトラマンゼアス2 超人大戦・光と影』でウルトラシリーズ初監督。以降、監督・特技監督として映画・テレビシリーズ両方でウルトラシリーズに深く関わる。 主な作品に『四月怪談』(88)、『ウルトラマンティガ・ダイナ&ガイア』(99)、『ULTRAMAN』(04)、『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(06)、『七瀬ふたたび』(10)、『VAMP』(14)などがある。

【第45回ぴあフィルムフェスティバル2023】
会期:9/9(土)~23(土・祝)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

【第4回大島渚賞】

【【映画『Single8』】
3/18(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本:小中和哉
出演:上村侑/髙石あかり/福澤希空(WATWING)/桑山隆太(WATWING)/川久保拓司/北岡龍貴/佐藤友祐(lol)/有森也実
(C)『Single8』製作委員会


提供元・ぴあエンタメ情報

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