鷲津は身内との間にも亀裂が入り始める。総理補佐官として多忙な鷲津は、家族との時間をほとんど持てなくなり、妻の可南子(井川遥)は不安を隠せない。親友として鷲津のサポートをしてきた副幹事長の鷹野聡史(小澤征悦)は、すべて鷲津の手柄になったことに思うところがあるらしい。かつて幾度なく打倒鶴巻のために共闘した週刊誌記者の熊谷は、支援者に起こったパワハラ騒動のもみ消し依頼を鷲津から頼まれ、しかもかつて自分たちがやられた「編集長に話をつけておく」という方法で記事を潰されたことに激怒する。政策秘書の貝沼永太(坂口涼太郎)は、不正水増し計上の問題について、「記載ミス」で片付かなかった場合はすべて貝沼の一存とするよう責任を押し付けられる。かつて鷲津が憎んでいたはずの「腐敗した権力」そのものへと、鷲津は変貌していた。

 鶴巻は怪文書には関わっていないことを明かし、「君を恨んでる人、他にもいるみたいだね」と語りかけ、「どう? 恨まれる側になった気分は」と微笑んだ。復讐する立場から、復讐される立場になった鷲津。正体の分からぬ復讐者を前に、鷲津は動揺するしかなかった。

 怪文書を送り付けた犯人は、鷲津と接点のある人物で間違いないだろうが、多くの関係者が鷲津に思うところがありそうなだけに、現段階で特定するのは難しそうだ。ただ筆者は、鷲津の秘書・蛯沢眞人(杉野遥亮)を疑っている。

 第9話で蛯沢は、不在時に鷲津の部屋に入った際、机の引き出しをじっと見つめる場面があった。その後の顛末はわからないが、おそらくは“紛失”したとされていた、亡くなった蛯沢の兄の件の書類を発見したのではないか。蛯沢の兄は、当時代議士だった犬飼孝介(本田博太郎)の事務所に陳情したが、「善処する」の返事をもらって喜んだものの、そのまま放置された末に過労死してしまった。蛯沢は兄の復讐を果たすべく犬飼事務所のスタッフに加わったのだが、しかし兄の陳情を実際に担当したのは当時犬飼の秘書だった鷲津であり、放置したのも鷲津だった。その証拠となる書類を最初に発見した秘書の蛍原梨恵(小野花梨)は、蛯沢に打ち明けるかどうかは任せるといって書類とともに鷲津に託したが、鷲津は結局、蛯沢に伝えられないまま、書類を封印していた。貝沼に責任を押し付け、熊谷が怒って退出したときも「週刊誌の記者とずっといい関係でいられるわけない」と切り捨てるような発言をしている鷲津の変貌を見て、蛯沢は復讐を決意したのではないだろうか。