こんにちは。先月はWhich Equities Have Outperformed When the Economy Slows?という小記事から一部を取り上げました。今回は、課題文の最後にあったFigure 1を訳してみたいと思います。金融・経済の文章では、図表を参照しながら話を進めるものが多く、本文との整合性が非常に重要です。図表は本文を分かりやすくするために存在するものですので、その訳がいい加減では本末転倒。本文以上に気を使って訳しましょう。
さて、前回の課題文の最後は、 こうした状況を受けて、国際通貨基金(IMF)と世界銀行は、2023年のGDP成長見通しを下方修正しました。(図表1参照) となっていました。以下がその「図表1」です。出所・脚注も訳してみましょう。
【本日の課題】
図表が出てきたら、まずタイトルから訳してしまう人が多いかと思いますが、わたしの経験から言って、X軸Y軸の名称、凡例、X軸とY軸それぞれの項目、脚注と出所、最後にタイトルの順に訳すのがお勧め。日本語記事では、例えば「世界の成長率」のような、「何を表している図表か」を言うタイトルが多いのですが、英語の場合、その図表の分析結果を示したり、本文を受けて今後の予想を述べるタイトルが非常に多いからです。今回はその後者のケースです。
今回の場合、X軸Y軸の名称はありませんし、凡例は単に「2022年」などと「年」をつけるだけで良いので楽ですね。クライアントさんによっては、年号だけならつける必要なし、の場合もあります。Y軸の数値もそのままでOK。
●World GDP Growth/U.S. GDP Growth
そのまま「世界のGDP成長率」「米国のGDP成長率」。GDPの部分を「国内総生産(GDP)」とするか否かは要相談ですが、狭い表の中に入れ込めば逆に分かりにくくなるので、通常は入れないように思います。ただ、一般的でない難解な専門用語で、本文中に出てこない(つまり説明もない)ような場合は、何とかして説明的にするとか、可能であれば*アスタリスクをつけて、脚注の後ろあたりに訳注を入れさせてもらうとか、何らかの対処が必要です。読者の専門知識レベルが高いことが想定されるレポートなどでは、そういう専門用語や略語も説明不要と言われることがあり、ほっとしたりします。
●Source: International Monetary Fund, World Economic Outlook Update, January 2023.
International Monetary Fundは「国際通貨基金(IMF)」かまたは単に「IMF」でOKです。問題はWorld Economic Outlook Updateの部分で、何も考えず「世界経済アウトルック更新」…などとはしないように注意。
結論から言いますと、これはIMFが毎年公表しているWORLD ECONOMIC OUTLOOK(2022年は10月に公表)というレポートの改訂版のことで、2023年1月にWORLD ECONOMIC OUTLOOK UPDATEとして公表されました。つまり固有名詞ですので、英語はただ発行者とレポート名を並べてるだけじゃん、などと言っていないで、日本語ではそれがしっかりと分かるよう、 出所:国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し改訂版」(2023年1月) などとする必要があります。
●Data as of January 31, 2023.
as ofを「〜現在」とするか「〜時点」とするかは、場合によりけりでしょうか。この場合は「2023年1月31日現在のデータ」「2023年1月31日時点のデータ」のどちらでも構いません。
●For illustrative purposes only.
この図表は例示目的で示しているのであって、これによって何か投資をお勧めするとか、そういうことはありませんよ、というお決まりのディスクレーマー(免責事項)です。いま「この図表は」と書いた通り、英語にはfigure等の言葉は含まれていませんが、日本語では必ず入れるようにします。「上記図表は例示目的でのみ表示」などでしょうか。
●Figure1: U.S. GDP Growth is expected to normalize as rates rise
図表の内容をすべて訳したら、そこで初めてタイトルをしっかり訳します。今回の場合、英語が文章になっていますが、やはりタイトルですので、「〜の水準に戻ると予想される」のようにきっちり語尾まで書かず、 図表1:金利上昇と共に米国のGDP成長率は平常時の水準へ のようにするのがいいかなと思います。