かつての自身に手を差し伸べ議員秘書として育ててくれた恩人と袂を分かつシーンは、リベンジでありながら哀愁が漂っていた。しかし、泰生を歩道橋から突き落とした犯人はいまだ闇の中。事件の根深さをあらためて知ると同時に、第3話のクライマックスでは、友人であり衆議院議員の鷹野聡史(小澤征悦)が「権力をふりかざす奴と闘いたいなら、お前も力を持て」と、鷲津に犬飼の地盤を継いで次回の総選挙に出馬するよう打診するという衝撃の展開となった。
いち議員秘書から国会議員へ。ドラマとはいえ人間の心情や永田町の因習をリアルに描いてきただけに、鷲津の行く先は修羅の道であることは容易に想像がつく。ただ、泰生の一件が国家ぐるみで潰されようとしている場合、それに抗うためには議員レベルの力が最低限必要であることは納得させられる。フィクションでありながら現実的に考えられる軌跡を描いていると筆者は感じた。
民政党幹事長・鶴巻憲一(岸部一徳)から党の公認を約束されるものの、鷲津には肝心の選挙資金が足りない。地元の有力者で後援会長の鰐淵益男(六平直政)の協力を得るよう鶴巻らに助言されるが、鷲津にとっても、犬飼と太いパイプでつながっている鰐淵は“黒幕候補”の疑惑の人物であり、事件の真相を探る口実となる。だが、借りのある犬飼から自分の息子・俊介に地盤を継がせたいと頼まれ、その俊介からも鷲津は犬飼の地盤を狙った強欲な男だと吹き込まれた鰐淵は、会いに来た鷲津に対して「お前だけは支持しない」と厳しく当たり、ろくに話を聞こうともしない。さらに鰐淵は鷲津のイメージダウンを狙った記事を地元紙に掲載させる。俊介もまた、千葉の犬飼事務所で鷲津の悪評をばらまき、鷲津夫妻を中傷する動画をネット上に流したりとなりふり構わぬ動きを見せる。
一方、鷲津は秘書見習いの蛯沢眞人(杉野遥亮)らに鰐淵の周囲を調べさせる。さらに鷲津の妻・可南子(井川遥)によって、鰐淵が認知症を患っている実母の介護を自分の妻・美恵子(滝沢涼子)に丸投げしていることが明らかに。市の福祉に頼ることも許されず、限界を感じていた美恵子は、離婚覚悟で家を出て、鷲津夫婦のもとに世話になる。その中で、鰐淵の母が徘徊により行方不明に。誰の力も借りようとしなかった鰐淵だが、一緒に探そうとする鷲津についに協力を依頼し、無事に母を発見。鰐淵は、鷲津が自分の弱みを握ろうとしていたことを打ち明けた正直さと、息子の事件の真相を知るために「権力に抗えるだけの力」が必要なのだという意志の強さに心を打たれ、一転して鷲津に協力することに。復讐心に取りつかれながらも、弱者への思いやりを忘れない鷲津のキャラクターが際立ったシーンだった。