三田紀房氏による漫画『インベスターZ』は、頭脳明晰な生徒が集う男子中高一貫校・道塾学園の“投資部”を舞台に、投資を行う学生たちを主役に据えた人気作品です。“投資部”はあくまでもフィクションの世界の存在かと思いきや、現実にも投資を行っている学生は少なくありません。本記事では「学生投資連合USIC(Union of Student Investment Clubs)」の幹部経験者3名に、投資に興味を持った理由や、その意義について聞いた話を紹介します。

投資サークル同士の交流や企業と連携する「学生投資連合USIC」

まず取材に応じてくれたのは、早稲田大学政治経済学部の井上晃希さん。2020年3月まで学生投資連合USICの第10期代表を務めていた井上さんは、同団体の成り立ちとコンセプトを以下のように語ります。

「USICは各大学の投資サークル同士が知識の共有や意見交換するのを目的として、2008年に設立されました。団体が掲げているミッションは、“学生の金融リテラシーの向上”です。現在は19大学の20団体、およそ600人が所属していますが、もちろん実際に投資をしている学生だけではなく、よりライトに『金融に興味がある』『大学での学問に活かすため、知識を学びたい』といったモチベーションで活動している人も多いですね」

井上さんによると、USICに加盟している各団体によって投資に対する考え方やアプローチの仕方は多種多様で、例えば早稲田大学の投資サークルの場合は、経済活動の基礎的条件を探る「ファンダメンタル分析」をメインにしているとのこと。

サークル内で完結しがちな人間関係や知識に幅を持たせるためにも、USICは各大学間での交流や、企業の協賛イベントを開催するなど、組織としての大きさを活かした活動に力を注いでいるそうです。

投資を学ぶことで、世の中のあり方が見えてくる

USICの代表として過ごした1年間を、「とにかく運営の活動ばかりをしていました」と笑いながら振り返った井上さん。彼自身は高校時代まで理系だったこともあり、意外にも「経済のことは何も知らない」タイプだったと明かします。

「漠然と『経済について学びたい』と考えて投資サークルに入りました。以前は日経平均株価なんて気にしたことがなくて、それが2万円なのか2,000円なのか20万円なのかもわからないレベル(笑)。投資について学ぶことで、株価や外国為替の変動が、現実の社会とどうリンクしているかが見えてきたというか……。『米中貿易摩擦がこんなふうに影響しているんだ』など、政治的なニュースへの理解度も深まりました」

金融業界への就職を目指している人はもちろん、将来、自分自身の資産を運用・管理する上でも投資の知識があるに越したことはありません。「ただ銀行に預けているよりも利回りのいい運用ができるようになりますし、リスクを回避する上でも知識は重要です。どんな仕事に就いても、長期的に役立つ知識を培えると思います」と“金融リテラシー向上”の意義を語る井上さんは、経済面以外のメリットについても言及しました。

「僕の場合は団体の運営を通じて社会人のみなさんと関わっていたので、早くからビジネスマナーを学べたことも大きかったです。USICでは学生が企業の分析をするIRコンテストを主催していて、意欲さえあれば実践的なプレゼンのやり方も習得できます。一介の学生が200人の前でプレゼンをする機会はそうそうありませんから、それも貴重な経験になると思いますね」

中学3年生で投資を始めた実践派も

(USICが発行するフリーペーパー『SPOCK』)

 

学生投資連合USICのメンバーの中でも、とりわけ積極的に投資を行っている“実践派”が、第10期の副代表を務めていた慶應義塾大学経済学部の武田望さんです。株の取引を始めたのは、なんと中学3年生のころ。

高校受験のために通っていた塾で指数関数や複利の概念を学んだことで、「なるべく早く始めたほうがいいと思ったんでしょうね(笑)」と、誕生日プレゼントとして株を買ってもらったそうです。

「高校時代はバスケ部が忙しかったのであまり触っていなかったんですけど、大学に入って同世代のいろんな人と会って、投資についての情報を交換するのが楽しくて。慶應のサークルはみんな個人プレーというか、それぞれが自分の理論を実践している感じなんです。明治大学はFXをやっている人が多いなど、USICを通じて各大学サークルごとの傾向がわかったのも面白かったですね」

武田さんが行っているのは株の現物取引と、「オプション取引もちょっと」とのこと。独自の理論にのっとり、「株を買ったときの価格を見ないようにして、終わったあとにどれだけ利益が出たかを考える」という投資スタイルを貫いているそうです。

「企業の決算資料に目を通すのが好きですね。専門書も可能なかぎり読むようにしています」と研究熱心な気質の武田さんは、若くして投資をする意義について次のように話してくれました。

「普段から頭を使うようになるのが投資のいいところだと思うんです。企業を調べることで社会をより深く知れたり、あらゆるものごとを投資の対象として考えてみたり。学べば学ぶほど、世の中の流れが見えてくるというか。ニュースひとつとっても、違う見方ができるのが楽しいですね」

株価の上下に一喜一憂せず、さまざまな可能性に思いをめぐらせて「再現性のある状況なのか」を努めて冷静に分析するようにしている武田さん。自身の成長を促してくれたUSICへの思い入れは深いようで、最後にこんなことを話していました。

「USICで『SPOCK』というフリーペーパーを発行しているんですが、昨今のコロナ禍の影響で置かせていただく場所がなかなか見つからなくて……。投資や金融に興味がある学生にリーチできる内容になっていますので、記事を読んで興味が湧いた人は、声をかけていただけると嬉しいです」