対照的にチルな空気を纏っているのが、バンドサウンドで本格的なファンクに挑戦した「人人人」だ。Kroiあたりを意識したであろう歌とラップをシームレスに行き来する展開は非常に現代的で、ファンキーなサウンドに乗せたマイクリレーという意味ではヒップホップバンド・韻シストにも近いかもしれない。何らかの現役のバンドマンが楽曲提供したのではと予想していたが、実際には作詞作曲編曲全てがSixTONES作品でお馴染みの佐伯youthKによるものであり、氏の引き出しの多さにも改めて驚かされた。「人人人」とともにYouTube限定のパフォーマンス企画で披露した「Chillin’ with you」も、タイトル通りまさにチル系のプレイリストに入っていそうな楽曲だ。メロウなトラックに重なる美しいハーモニーが心地良く、田中樹によるラップのフロウもスキルフルな仕上がりで非常に頼もしい。ちなみに作詞で参加したTSUGUMIは姉妹R&Bデュオ・SOULHEADのメンバーで、こちらもSixTONES作品の常連である。
そんなSOULHEADがメジャーデビューしたのは2002年のことだが、近年の音楽シーンにおいては90年代~00年代前半頃のR&Bサウンドがリバイバル傾向にある。そういった空気を反映しているのが、シングルでもリリースされた「わたし」だ。ピアノとストリングスを主体としたスムースなR&Bでアダルトな魅力を放つ、SixTONESにとっては新境地的な楽曲である。サビのコーラスワークも相まって、個人的にはゴスペラーズ「永遠に」を思い出した。
さらに初回盤のみ収録のユニット曲には、本編とはひと味違った遊び心が感じられる楽曲が揃っている。森本慎太郎と田中樹による「OPA!」は直球のEDMサウンドが楽しいアッパーチューン。ドロップ部分の重低音に乗って繰り返される”OPA”のフレーズは非常にキャッチーで、必ずや耳に残るだろう。京本大我と高地優吾の「ラ・ラ・ラ・ラブストーリー」は1990年代に流行した渋谷系のオマージュ楽曲である。元ネタはフリッパーズ・ギター「恋とマシンガン」と思われるが、ゴージャスなホーンセクションも相まってどこかミュージカル的な印象も受ける。タイトルも映画『ラ・ラ・ランド』にかかっているのかもしれない。そしてジェシーと松村北斗による「愛という名のベール」に、一聴してKinKi Kidsへのオマージュを感じたのは私だけではないだろう。「愛のかたまり」や「スワンソング」といったキンキお得意の哀愁歌謡の系譜で、流麗なストリングスも楽曲の世界観をドラマチックに盛り上げている。
総じて言えばロック色はやや後退し、その分これまで以上にジャンルの幅の広がりを感じる作品だ。また1つのジャンルでは括りきれない楽曲も目立っており、クロスオーバー化が進む現代の音楽シーンを象徴しているようにも思える。これまでにない音楽的挑戦はメンバーの新たな表現をも引き出しており、今作は「声」の持つ多彩な表情を生かしたバラエティ豊かな1枚に仕上がっている。