誤解(2) 「贈与税の申告書が毎年の贈与の証拠になる」
贈与についてのもう一つの誤解は「申告書が贈与の証明になる」というものだ。特に連年贈与については、契約書を作成する手間が惜しいのか、申告書で代わりになると考える人が多い。「連年贈与としてみなされるのは知っているので、あえて111万円を贈与して贈与税を申告した。贈与税の確定申告書が暦年課税贈与の証明だ」という人もいる。残念ながら、確定申告書は贈与契約書の代わりにはならない。なぜなら確定申告書は贈与の結果の発生物でしかないからだ。
贈与と贈与税はイコールではない。贈与という法律行為がまず存在し、その結果発生した財産の授受が要件を満たせば贈与税が課税される。贈与という行為は民法549条において次のように規定されている。
「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手に与える意思を表示し、相手が受諾をすることによって、その効力を生ずる」。
つまり、あげる側が「あげます」と意思を示し、もらう側が「もらいます」と承諾することが贈与という法律行為の成立要件なのだ。贈与税の発生は、その贈与の行為の後の結果にすぎない。なおかつ、申告書は納税者側の誤解や恣意でどのようにも作成できる。そのため、申告・納税の事実を証するにすぎない。
「あげます」「もらいます」の贈与当事者の両方の意思表示をきちんと書面として残すなら贈与契約書を作成し、公正証書にしておくのが望ましい。手数料は、100万円以下なら5,000円、100万円超200万円以下なら7,000円というように贈与金額によって決まる。
なお、契約書だけ作成して実際の贈与がなければ、贈与とみなされず相続税の課税対象となる。きちんと預貯金を移動するなり、登記を変更するなりの証拠を残すこともお忘れなく。
【参考】
日本公証人連合会「法律行為に関する証書作成の基本手数料」
誤解(3) 「自分の預金を『贈与』のつもりで子ども名義に切り替えた」
名義だけを子どもや孫などに書き換える、いわゆる「名義預金」もまた問題になりやすい贈与形態だ。なぜかというと、「名義は変更されているものの、実際の預け入れや引き出し、用途については相変わらず親が管理しているまま」のものが多いからだ。「子どもの将来を考えて名義は変えてあるけど、浪費するかもしれないから存在すら教えていない」というのも珍しくない。これら名義預金は、受け取る側の使途や管理の自由がないため、実質的には贈与したことにはならない。そのため、後日発生した相続の際、相続財産として加算されることになる。
繰り返すが、贈与はあげる側ともらう側の双方の合意があり、かつ、実際にその贈与の事実が存在することが大事だ。贈与を行うなら名実ともに子どもに財産を移すようにしよう。
誤解(4) 「余命あと1年と分かり、相続財産に加算されないよう生前贈与を開始した」
財産の持ち主に重大な病気が発生し、慌てて贈与を行うケースもある。場合によっては、これがムダな手続きに終わってしまうことも。なぜかというと、相続開始時(=被相続人の死亡時)以前3年間において、被相続人から相続人に対して贈与された財産は、暦年課税制度の対象となるものであっても相続財産に加算されるからだ。一旦払った贈与税は控除対象とはなるものの、110万円未満であるかどうかに関係なく相続財産に加算されることになる。
「財産の持ち主はまだ元気だから」といって先延ばしにするのではなく、元気なうちにこそ生前贈与は計画的に行っておくべきだ。
なお代襲相続でない限り、孫への生前贈与は、財産の持ち主が亡くなる以前3年以内でも相続財産への加算対象とはならない。後述するが、孫への生前贈与は実は税金対策のポイントとなるのである。
誤解(5) 「非課税になると聞いて教育資金贈与制度で孫に200万円贈与した」
ここ数年、教育資金や結婚・育児資金の贈与税の非課税制度も生前贈与を活用した税金対策として注目を集めている。非課税限度額が大きい上、子や孫の生活の役に立つということから、銀行から勧められて活用する高齢世帯が急増しているのだ。ただ、場合によっては暦年課税制度を活用したほうがよいこともある。それは贈与金額が200万円や300万円など少額である場合だ。
贈与金額が200~300万円程度の場合、2回か3回にわけて贈与したとしてもあまり手間にならないし、一括で贈与したとしても贈与税率は10~15%と低率だ。もし200~300万程度の贈与額で非課税制度を活用すると、受け取った側は、たった200~300万円のために一度自分の財布から教育費などをねん出したり、領収書を保管したりと労力をかけなくてはならない。税金が多少かかったとしても、現金でもらって自由に使えるほうがラクと感じる現役世代もいるのだ。
贈与する金額が1,000万円や1,500万円ならば、税金面や事務負担面とのバランスから非課税制度の活用の意義が出てくる。教育資金などの贈与の非課税制度を活用するならば、税金だけに着目するのではなく、貰った側がどれだけの手間をかけられるのかといったことも加味して判断したい。